| 要旨トップ | 本企画の概要 | | 日本生態学会第72回全国大会 (2025年3月、札幌) 講演要旨 ESJ72 Abstract |
自由集会 W18-3 (Workshop)
生態系生態学においては、炭素流がエネルギー流と見なされることが多い。これは、表層生態系においては酸素が豊富に存在するため、エネルギー獲得における酸素の役割が見失われがちであるためである。電子伝達系では、有機炭素の持つ電子が酸素に受け渡される過程でアデノシン三リン酸(ATP)が合成される。このため、電子の渡し手と受け取り手の両者が必要不可欠である。一方で、原核生物における電子の渡し手と受け取り手は有機物と酸素に限定されない。多様な物質を利用したATP生成のための代謝が、微生物の増殖速度や、それらの代謝反応を介した相互作用を規定する。
ATP生成の源となる化学反応の進行方向性やエネルギー出力は、環境中の化学的(熱力学的)情報によって厳密に支配される。したがって、それらの化学的情報が、微生物の進化や群集構造を形作るのに影響している可能性がある。本発表では、エネルギー代謝の観点に基づき、非生物的な化学情報が微生物代謝の進化の方向性に影響している可能性を指摘した研究事例を紹介する。さらに、系統学的な分類の枠を超え、エネルギー代謝で微生物個体群を定義し直し、エネルギー代謝を介した微生物群集ダイナミクスを記述することの意義と将来展望について紹介する。