| 要旨トップ | 本企画の概要 | | 日本生態学会第72回全国大会 (2025年3月、札幌) 講演要旨 ESJ72 Abstract |
自由集会 W18-4 (Workshop)
群集生態学における理論的枠組みは、群集のダイナミクスを形作る要素を決定し、それらの間の相互作用を記述する中で発展してきた。これらの相互作用の中には群集全体の挙動を特徴づけるものがあり、その結果として、群集はある安定な定常もしくは準定常状態に至ることがある。相互作用の中で特徴付けられた持続的な構造は、群集の理解を深めるための基盤となる。
群集の相互作用を記述する際には物理化学の法則が参考にされ、特に、反応速度論は単位要素間の遭遇確率に基づく相互作用の速度の記述に広く導入されてきた。さらに、微生物群集においては、質量保存則が化学量論に基づく増殖の制約を表現するためにしばしば取り入れられている。しかし、物理化学の主要な理論体系のひとつである熱力学法則を群集モデリングに導入する試みは限られている。
熱力学法則は、化学反応の方向性と、それに伴う自由エネルギーのやり取りを支配する。動植物の群集ダイナミクスは、細胞レベルのエネルギー収支と切り離されることが多く、熱力学的律速は現れにくい。しかし、微生物、特に地下圏の微生物のダイナミクスは、外界から獲得できるエネルギー量によって著しく律速されることがしばしばある。そのため、熱力学法則は微生物群集の持続的な群集構造や、それに伴って発現する機能を理解する上で不可欠な視点を提供する。
本発表では、反応速度論や化学量論に加え、化学熱力学的視点を微生物群集ダイナミクスに導入する手法について紹介する。また、その導入によって浮かび上がる生態系生態学と群集生態学の境界問題として、群集内のエネルギー利用効率や、熱力学的制約のもとでの群集構造について議論する。さらに、本アプローチがオミクス解析や地球化学研究とどのように結びつくかを示し、熱力学的手法を用いた微生物群集の解析が、理論とデータの双方向駆動による仮説検証にどのように貢献しうるかを提案する。