| 要旨トップ | 本企画の概要 | | 日本生態学会第72回全国大会 (2025年3月、札幌) 講演要旨 ESJ72 Abstract |
自由集会 W19-1 (Workshop)
必須生物多様性変数(EBVs)は、生物多様性の変化を監視するための標準化された観測項目ならびに統合データの枠組みであり、特に国家および国際的な保全目標の進捗評価に貢献することが期待されている。EBVsは厳密に定義されているものの、これまで国や地域レベルで検討されたEBVsへの変換のための具体的なデータセットには柔軟性があり、地域の特性に応じた実施戦略の策定が求められる。
本発表では、まずEBVsの概要を説明した後、日本におけるEBVsへの変換のためのデータセットの現状を検討する。日本では多くのEBVクラスにおいて十分または豊富なデータが整備されており、特に種の分布、フェノロジー、環境災害に関するデータが充実していることが確認された。一方で、フィンランドやヨーロッパと比較すると、遺伝的構成、種の特性、生態系構造のEBVクラスに関するデータは不足していることが明らかになった。また、「30 by 30」などの国際・国レベルの指標との関連性を踏まえ、EBVsの活用による国際課題への貢献についても検討する。
次に、アジア太平洋生物多様性観測ネットワーク(APBON)におけるEBVs活用の課題を紹介する。EBVsは国際生物多様性観測ネットワーク(GEO BON)に参加する欧米の研究者主導で発展した概念であるため、アジア太平洋地域の多様な環境や文化的背景を十分に反映しているかについて慎重な検討が必要である。特に、国家レベルでのEBVデータセットの整備に加え、EBVの枠組みには明示的に含まれていないアジア固有の環境・生物多様性の特性を整理し、地域の実情に即した適用を図ることが求められる。地域間の比較分析を通じて共通点と相違点を明らかにし、EBVsを活用して生物多様性課題の焦点を明確化することで、より効果的なモニタリングの確立と政策立案へ貢献することが期待される。