| 要旨トップ | 本企画の概要 | 日本生態学会第72回全国大会 (2025年3月、札幌) 講演要旨
ESJ72 Abstract


自由集会 W19-2  (Workshop)

植生フェノロジーの長期リモートセンシング観測による生態系への気候変動影響解明【O】
The Impact of Climate Change on Ecosystems Revealed by Long-term Remote Sensing of Vegetation Phenology【O】

*野田響, 竹内やよい(国立環境研究所)
*Hibiki NODA, Yayoi TAKEUCHI(NIES)

フェノロジー、すなわち植生の開花や開葉、紅葉、落葉などの生物季節は6つのEBVクラスの中において、種特性及び生態系機能クラスに直接的にかかわるだけでなく、群集構成のEBVクラスとも関連し、また一次生産などの他の生態系機能とも密接に関係している。フェノロジーは複数のEBVsにまたがる重要な変数であることや、リモートセンシングによる観測の有効性が高いことから、観測の優先リストに挙げられるなど特に注目されている。
特に落葉樹林においては、優占する林冠木の葉のフェノロジーは光合成期間の長さと光合成能力の季節パターン、ひいては森林の年間生産量を決定する。さらに林冠木の展葉・落葉により林床の光環境が劇的に変化するため、林冠フェノロジーは林床に生育する稚樹や低木、草本植物の生存・成長、種組成にも影響する。葉のフェノロジーは気象条件、特に気温の影響が大きいため、気候変動による変化も報告されている。今後、気候変動が生態系の機能と構造に与える影響を監視・評価する上で、フェノロジーは重要な観測項目となる。
葉の成長や老化に伴う葉の生理生態学的特性と葉群構造の変化は、群落全体の分光反射率を大きく変化させるため、光学リモートセンシング技術は、フェノロジーを効率的に観測する上で優れた手法である。地上リモートセンシングネットワークPEN(Phenological Eyes Network)は20年以上の観測を通じて、森林の機能や構造とそれらのフェノロジーについて多くの知見をもたらしてきた。また、人工衛星観測は、数十年程度のフェノロジーの変化を、空間的な変化パターンとともに把握することを可能にし、気候変動影響の評価に加え、将来予測にも利用されている。
この発表では、リモートセンシング技術を活用したフェノロジー研究の事例を紹介しつつ、特に近年の気候変動影響を評価する上でのEBVsとしてのフェノロジーについて議論する。


日本生態学会