| 要旨トップ | 本企画の概要 | 日本生態学会第72回全国大会 (2025年3月、札幌) 講演要旨
ESJ72 Abstract


自由集会 W20-1  (Workshop)

日本列島におけるコバネガの異所的分布と食性転換を伴わない多様化【B】【O】
Allopatric distribution and diversification without dietary shift in the micropterigid moth of the Japanese Archipelago【B】【O】

*Yume IMADA(Kyoto Univ.)

植食性昆虫は既知の生物種数の約4分の1を占めており、その多様化の機構は、進化生態学のなかで注目を集めてきた問題のひとつである。植食性昆虫の多様化には、昆虫が利用する植物(寄主植物)の系統的範囲が進化の過程で変化することが昆虫の多様化を促すという、「食草転換」駆動型のシナリオが強調されている。植食性昆虫の分子系統解析から食性の進化経路を調べる研究例は蓄積されつつあるが、地理的種分化と生態的種分化がそれぞれいかに寄与するかについてはまだ検討が進んでいない。
本講演では、植食性昆虫の種分化に地理的要因が寄与したと考えられる例として、コケを食べつつ日本列島で異所的に多様化したコバネガ類の分子系統解析の研究例(Imada et al. 2011)を紹介する。コバネガ類は鱗翅目のなかで他の全系統の姉妹群に位置する科であり、日本列島には多くの固有種を含む多数の種が生息する。本研究では、日本を中心に食性と分布域の調査を行い、分子系統解析を行なった。その結果、東アジアのコバネガ類において、ジャゴケ種群を利用する食性の獲得が1度生じてから、日本列島を中心とした放散が生じたことが示された。このジャゴケ食のクレードに属する種の分布域は互いに重なることがなく、異所的分布が形成されていることも明らかになった。こうした日本でのコバネガの放散は、明らかな食性転換を伴わない例として最大規模といえる。こうした例をもとに、植食性昆虫において種分化における生態的ニッチシフトの重要性が過大評価されてきた可能性を提示する。


日本生態学会