| 要旨トップ | 本企画の概要 | | 日本生態学会第72回全国大会 (2025年3月、札幌) 講演要旨 ESJ72 Abstract |
自由集会 W20-2 (Workshop)
種分化の過程では、地理的に隔離された同種の2集団が異なる進化を遂げることで、生殖隔離が確立される。両集団の生殖隔離が不完全なまま再び接触すると、雑種形成が起こり、多様な生態学的現象を引き起こす。代表的な例として、生存力が高く繁殖可能な雑種が親種との競争に勝ち、親種が絶滅する場合がある。他方で、生存力が低く繁殖できない雑種が形成されると、両親集団の増殖率が大きく低下する繁殖干渉が起こり、少数派の親種が絶滅することがある。以上のように、雑種の適応度に違いはあれど、これまで雑種形成が親種の絶滅に与える生態学的な影響に注目が集まっていたが、親種・雑種の共存が起きる過程は十分に理解されていない。本研究では、繁殖形質が一遺伝子座で決定される二倍体近縁2種の個体群動態モデルを解析し、雑種の適応度(出生率 / 親種との資源競争)や、親種の適応度(メスの同種認識能力と親種の間の資源競争)が、親種・雑種の共存に与える影響を調べた。
解析の結果、メスの同種認識能力の高さと親種の間の資源競争に関わらず、雑種と親種の資源競争が十分に強い場合は少数派の親種が絶滅し、競争が弱い場合は常に親種2種の共存が可能であるとがわかった。また、雑種と親種の資源競争が中程度であれば、群集内の初期頻度に依存して親種・雑種の共存または少数派の親種の絶滅が起きることが明らかになった。これらの結果は、二遺伝子座以上のモデルでも同様である。以上の結果から、雑種形成が起こる場合、雑種と親種の資源競争が親種・雑種群集の代替安定状態を大きく左右することが示唆された。本研究を多遺伝子座モデルへ拡張し、遺伝分散や突然変異を導入することで、生態学的時間スケールで生じた代替安定状態が、遺伝子流動を伴う隔離強化や繁殖的形質置換の開始機構に与える影響への理解を促進することが期待される。