| 要旨トップ | 本企画の概要 | | 日本生態学会第72回全国大会 (2025年3月、札幌) 講演要旨 ESJ72 Abstract |
自由集会 W20-4 (Workshop)
生物多様性の進化において、異所的種分化は主要なメカニズムとされる。従来は、海峡や山脈、気候勾配など外的要因による地理的分断が中心と考えられてきたが、近年は種間競争や繁殖干渉など生物間相互作用も隔離形成に大きく寄与することが示されている。特に、交雑地帯は親種の分散と雑種に対する選択圧の均衡により、部分的な障壁として機能し、安定あるいは移動することが確認されている。本講演では、さまざまな要因によって地理的に隔離された集団が、新たな環境に適応することで種分化するプロセスを問いなおす。集団は厳しい環境にさらされる際、絶滅リスクを経験するが、そのような個体群動態は生殖隔離の進化速度にどのような影響を及ぼすだろうか。また、遺伝子流動が種分化を抑制・促進する環境条件は特定できるだろうか。これらの疑問に答えるため、シンプルな数理モデルを導入する。その結果、急速な環境変動への適応は生殖隔離の進化を促すものの、長期的には集団が絶滅してしまうことが判明した。これは、「生殖隔離の進化速度と、長期的な系統樹で推定される種分化率との間に相関がみられない」という近年の論争を説明しうるかもしれない。むしろ種分化率を規定するのは、生殖隔離の進化速度自体よりも、種分化後の資源競争や共存の難しさといった、生態学的要素の可能性がある。種分化を新種が誕生する一度のイベントだけでなく、種分化後の集団がさらなる種分化イベントを繰り返す「種分化サイクル」として捉えたとき、種多様性の創出にはどの生態学的プロセスが「いつ」「どの程度」重要であるか議論したい。