| 要旨トップ | 本企画の概要 | 日本生態学会第72回全国大会 (2025年3月、札幌) 講演要旨
ESJ72 Abstract


自由集会 W21-2  (Workshop)

市民参加型の里山植生調査と里山利用法の検討【O】
Satoyama vegetation survey in collaboration with people and a study of Satoyama usage methods【O】

*紺頼楓, 横部智浩, 田中拓弥, 徳地直子, 舘野隆之輔(京都大学)
*Kaede KONRAI, Tomohiro YOKOBE, Takuya TANAKA, Naoko TOKUCHI, Ryunosuke TATENO(Kyoto University)

人間の生活と密接に結びついて生態系が成立してきた里山は、近年の生活様式の変化により放棄されることが多く、生態系の変化や荒廃が顕在化している。このため、里山の状況の把握やモニタリング調査が必要となっている。しかし、広範囲の植生を研究者だけで網羅的に調査することは人材・時間のリソースが不足している。そこで、里山近隣に住む市民が一体となってその植生を調査する市民科学的なアプローチの重要性が高まっている。本発表では、京都大学の上賀茂演習林で実際に行った市民参加型の里山植生調査の例を紹介し、その手法や今後の里山利活用を検討するうえでの、市民参加型調査の有用性について考察する。
京都大学の上賀茂試験地の北東部に位置する、外国産マツの人工林の伐採後少なくとも5年の二次林約0.4haの範囲を対象に、2023年10月13日-14日の2日間合計12時間程度で植生調査を実施した。面積が均等になるように調査地を6分割し、それぞれのグループに樹種名を判別可能な人物を少なくとも一人入れた。参加者は里山管理や自然環境に興味を持つボランティアであった。目測で胸高直径が5cm以上と判断された樹木の種名・胸高直径・位置を記録した。調査後、QGISを用いて位置図からWeb地図を作成した。調査地全体で31樹種、727本が確認された。この結果から今後の利用の方針を参加者全員で検討し、工芸的・景観的な価値がある樹種を残し、整備や有用樹種の植栽を実施するよう策定した。その後2024年2月まで、数回に分けて伐採や下草刈りを実施した。また3月にはコウゾ、ウルシ、クワを計16本植栽し、獣害対策の電気柵(約250m2)を設置した。
このように、対象地の植生地図や樹種のリストを作成したことで、より円滑な里山利用方針の策定が可能になることが明らかになった。また、市民が一体となり植生調査を実施することで、広範囲を比較的短時間でデータを収集でき、市民参加型調査の有用性が示唆された。


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