| 要旨トップ | 本企画の概要 | | 日本生態学会第72回全国大会 (2025年3月、札幌) 講演要旨 ESJ72 Abstract |
自由集会 W21-4 (Workshop)
里海は柳(2006)により「人手が加わることによって生物多様性と生産性が高くなった沿岸海域」と定義される。これは、人の介入によって形成された景観を持ち、地域の生物多様性と深く関わる水域を指し、河川も人間活動と密接に関わることから里海環境の一つと捉えられる。里海の生物多様性や生態系機能を適切に管理するには、管理者、漁業者、自治体、住民など、多様な主体の連携が求められる。しかし、里海の概念や当事者意識そのものが、生態系サービスを享受する立場にある地域住民に十分浸透していないことも多く、里海の担い手不足が懸念されている。そこで我々は、研究者の立場から多様な主体へ働きかけるため、環境DNA技術を活用した魚類の多様性評価を京都府舞鶴市の沿岸や河川で実施し、その知見を地域住民や管理者と共有することを視野に入れた調査を進めてきた。本発表では以下の二つの取り組みを紹介する。
1.環境DNA調査と社会調査の融合による、沿岸地域住民の里海認識の解明
2.環境DNA調査を用いた舞鶴市・伊佐津川水系における魚類多様性の季節動態の解明
前者では、舞鶴湾の内外で魚類環境DNAメタバーコーディングによって検出された魚類相のデータを質問紙に組み込み、沿岸地域の住民を対象に生息魚類の認知度を調査し、里海認識に関する分析を行った。後者の河川調査では、山間部から市街地までの水系全体で季節的に得られた魚類環境DNAデータをもとに、地域の生物多様性について河川の連続性に着目して分析した。本発表では、これらの環境DNAを活用した里海研究を通じて、地域の主体との連携をどのように進めていくかを含め、今後の展開を議論したい。