| 要旨トップ | 本企画の概要 | 日本生態学会第72回全国大会 (2025年3月、札幌) 講演要旨
ESJ72 Abstract


自由集会 W22-1  (Workshop)

自然史標本をどう守る?〜博物館だけの問題にしない大学も含めた研究資源保全と活用【O】
How to conserve natural history collections? Actions of SPNHC for utilization and protection, not only in museums but universities【O】

*佐久間大輔(大阪市立自然史博物館)
*DAISUKE SAKUMA(Osaka Mus. Nat. Hist.)

 自然史標本は,情報の宝庫である。第一に,標本を採取し,残した人は特定の意図を持って,その個体を標本にしている。分布の記録として,あるいは観察,記録した証拠として,気になる変異を持つ個体としてなど,それらの記録は標本とともに観察記録等として残り,標本はときに論文に引用される。第二に,採集者は意図していないが,標本となった後に標本を利用した観察者によって明らかにされる情報もある。植物標本に残された食痕,寄生菌の痕跡,組織構造,DNAなどあとから調査されることも多い。第三に,コレクションとして集積されることにより分かることも多い。大きさや形,生物季節や変異の幅,生息場所情報なども多数の情報が集まればハビタット特性の推定などにも使われる。
 こうした情報は取り出され,論文などに記載されるが,標本→研究者→論文と取り出された情報を,標本に付随させ還元することは少ない。研究活用の実績が標本の価値を決めるとも言えるのに,その情報は拡散してしまっている。
 自然保護同様に,学術資源保全はアカデミアの責務である。標本の価値は活用で上げることができる。小規模な博物館や大学などに残っている過去の標本は貴重な学術資源となる可能性を秘めている。これを,保全するためにこそ,活用を考えていきたい。活用の主体を広げるために,情報の公開なども重要になる。メタ情報だけでもGrSciColなどで公開することが望ましい。より詳細な公開の手法として注目がされているのはデジタル拡張標本(DES)である。実際の標本のデジタルツインとでも言うべきDESは,デジタルな標本に様々な情報を統合して公開するバーチャル上の収蔵庫である。国際自然史標本保存学会や生物多様性標準化委員会などで議論が進められているものだ。奈良のようにアカデミアで学術資料が廃棄されるという痛ましい事態を回避するために,活用と公開をセットにした保存を検討したい。菌類の事例なども紹介する。


日本生態学会