| 要旨トップ | 本企画の概要 | | 日本生態学会第72回全国大会 (2025年3月、札幌) 講演要旨 ESJ72 Abstract |
自由集会 W22-3 (Workshop)
大学博物館やそれに相当する施設の,学内における役割は概ね一貫している。即ち,その大学に関する歴史や研究の紹介(展示)と,伝統的に収集されてきた標本や資料の保管・活用(収蔵)である。演者が勤める北海道大学総合博物館では,任期付を含め専任教員が9名おり,国内の大学博物館等施設の中では恵まれている。それでも,一般的な都道府県立の博物館と比べると,展示・収蔵に関わるスタッフの人数は1/3程度である。一方で,大学博物館に寄贈依頼のある「モノ」は,各種自然史標本に加え,芸術作品,科学機器など,多岐に渡る。これらの分野に対して,専任教員の人数が慢性的に足りていない。今回は,演者のこれまでの経験をもとに,大学博物館が抱える植物標本庫の特徴について紹介する。標本を寄贈する際の参考となれば幸いである。
大学博物館の植物標本庫管理システムは,挑戦的なテーマに標本を活用しやすい。特に標本の破壊を伴うサンプリングの可否は管理者の判断に委ねられるが,管理者が少なく小回りが利くことで,(無茶な計画でなければ)迅速な判断が可能である。古い標本が充実している場合が多いことも,重要な特徴の一つである。また大抵の場合,管理者はこのようなテーマを主体的に進める余裕がない。
一方で,標本の将来が必ずしも保証されていない,というのは無視できない。分野あたりの教員数の不足は,教員の後任人事において,分野の変更という議論を常に生む(ようである)。さすがに廃棄に至ることはないものの,管理者が不在となった標本や資料は死蔵されることになる。このような状況が大学で頻発していたために大学博物館が設置されるようになったと演者は類推しているが,残念ながら完全に解決されたわけではない。とはいえ実際には,陸上植物や昆虫のように,標本点数や利用実績が多い生物群ほど,このリスクは低いように感じられる。