| 要旨トップ | 本企画の概要 | 日本生態学会第72回全国大会 (2025年3月、札幌) 講演要旨
ESJ72 Abstract


自由集会 W23-1  (Workshop)

ニホンザルに見られた農地での採食行動の個体差:性、母性、個性の影響【O】
Individual differences in foraging behavior of Japanese macaques in farmland: Influences of sex, maternity and personality【O】

*三谷友翼(岩手連大)
*Yusuke MITANI(Iwate University)

 野生動物による農作物被害が深刻化している。近年、農作物への食害に顕著な個体差がみられることから、個体の属性に着目した対策が検討されることがある。
ニホンザルの農作物被害対策では、比較的早い時期から群れや個体に着目した管理が検討されてきた。本種の群れは性、年齢、繁殖状態などの身体的特性の異なる個体から構成されるとともに、各個体は経験や遺伝的な差異に基づく個性を有すると考えられる。そのため、栄養要求・リスクへの感受性などは個体ごとに異なり、農地での採食行動及び農作物への食害には群れ内で個体差が生じる可能性がある。しかし、群れの中で加害にどの程度の個体差があるか、どのような個体が激しく加害しているか検討した事例はない。本発表では、ニホンザルを対象に個性及び身体的特性(性、繁殖状態)と農地での採食行動の関連性を検討し、個体に着目した被害対策の可能性について検討する。2022年、2023年にかけて石川県白山市に生息する加害群1群を対象に調査を行った。まず、個体ごとに逃走開始距離(捕食者の接近に対して逃走を開始する時の距離)を測定し、大胆さについての個性の実態を評価した。次に、農地での行動観察を実施し、農地への出没時に先頭になった個体を記録すると共に、フォーカルアニマルサンプリングにより対象個体の農地での行動及び最も林縁から離れた距離(以下、最大出没距離)を記録した。逃走開始距離の反復率を推定した結果、有意な個体差が検出され、個性の存在が示唆された。農地での行動については、農地への出没時間、採食時間、警戒行動の頻度には個性がやや影響することが示唆されたが、最大出没距離や出没の先頭個体の特性には個性よりも性差や繁殖状態の影響が強く見られた。特に、メスの行動は繁殖状態を反映し、年ごとに大きく異なるものと考えられた。このことから、ニホンザルの個体管理においては性による生活史の違いを考慮する必要がある。


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