| 要旨トップ | 本企画の概要 | | 日本生態学会第72回全国大会 (2025年3月、札幌) 講演要旨 ESJ72 Abstract |
自由集会 W23-2 (Workshop)
行動を長時間観察できる野生動物は少なく、多くの動物種は観察できても短時間で、生涯に一度観れるか否かの種も存在する。特に、生態系の高次捕食者は個体数の密度が低いため、直接観察は至極困難な種が多い。高次捕食者の代表例であるネコ科動物は現在41種が確認されており、熱帯から寒帯まで世界中に広く分布している。ネコ科動物は高次捕食者として生態系の維持に関わっているが、その半数近くの種が絶滅の危機に瀕している。しかし、国内外を見ても野生ネコ科動物の研究者は少なく、研究者にいたっては“絶滅寸前”と言っても過言ではない。研究者が少ないことの理由に、ネコ科動物は直接観察が困難であることが挙げられるだろう。しかし、近年は生化学分析やリモートセンシング等の技術向上により、「直接観れない動物」の研究も盛んにおこなわれるようになってきた。ネコ科動物の中でも、人が足を踏み入れるのも困難な高山に生息しているのがユキヒョウ(Panthera uncia)である。広大な行動圏をもち、個体数密度がとても低い。主なコミュニケーション手段は匂いであり、頻繁にマーキング行動をする。そのため、彼らのメッセージツールである「糞」を見つけることは不可能ではない。糞から排泄者の情報をいかに取り出せるかが重要であり、私は糞中のステロイドホルモンを分析することでユキヒョウの生理状態(主に、発情や妊娠などの繁殖状態とストレス状態)の評価を試みてきた。ユキヒョウを保全する上で解決すべき課題のひとつに、家畜を襲撃することによる人との軋轢がある。糞に着目して、ユキヒョウの排糞位置、糞内容物(餌動物または家畜を捕食)、および各種ホルモン濃度を調べることで、村の周辺を行動圏にもち、家畜を襲撃する個体の生理的特徴を分析している。本発表では繁殖やストレスに関わる生理学的視点からユキヒョウの行動を理解し、保全に生かす試みについて紹介したい。