| 要旨トップ | 本企画の概要 | | 日本生態学会第72回全国大会 (2025年3月、札幌) 講演要旨 ESJ72 Abstract |
自由集会 W25-3 (Workshop)
近年、様々な社会経済活動に起因する土地利用の変化により、草地および森林生態系は深刻な影響を受けている。世界の山岳生態系において、スキーリゾートの開発は生物多様性の減少を引き起こす現代的な土地利用の一つとして知られている。しかし、森林限界以下の地域では、適切な建設・管理方法によって、一部のスキー場が在来の草原生植物や動物の代替的な半自然草原環境として機能していることが報告されている。
本研究では、1940年代から1990年代にかけて管理放棄された放牧地において、二次林や植林されたカラマツ林を伐採して建設されたスキーコースに着目した。これらのスキーコースでは、20-60年程度の管理期間を経ても、放牧地由来のスキーコースと比較して、在来の草原生植物の多様性が低い状態が継続していることが明らかとなった。
この長期的な植物多様性の低下の要因として、過去の森林化による植生の消失、それに伴う環境要因の変化、さらには種子散布の制限等が複合的に作用していることが判明した。これは、過去の土地利用(管理放棄による森林化)が、管理再導入後も長期間にわたって生態系に影響を及ぼす「負の遺産効果」として捉えることができる。
草原生植物の減少が問題視される中、その再生に向けた取り組みの重要性が増している。本研究は、再生が順調に進まない要因として、過去の土地利用履歴が現在の生態系に及ぼす長期的な影響について新たな知見を提供するものである。