| 要旨トップ | 本企画の概要 | 日本生態学会第72回全国大会 (2025年3月、札幌) 講演要旨
ESJ72 Abstract


自由集会 W27-1  (Workshop)

北海道の沿岸生態系解明のために環境研究総合推進費を活用する【O】
Using the Environment Research and Technology Development Fund to understand coastal ecosystems in Hokkaido【O】

*仲岡雅裕(北海道大学)
*Masahiro NAKAOKA(Hokkaido University)

 環境研究総合推進費では、研究成果の環境政策への貢献・反映が求められる。それゆえ、研究そのものの進展と社会貢献の両面から意義・動機を得ることができる。本講演では、私たちの研究グループが実施中の課題「生物多様性保全・気候変動対策・地域振興を最適化させる自然公園設計:北海道東部・根釧地方における学際的研究と実践」を紹介し、推進費の有効な活用方法について考えたい。
 30 by 30 ⽬標の達成に向けて、環境省は2022年に野付半島・⾵蓮湖・根室半島を新規国定公園候補地に選定した。ここには、多様な湿原や藻場・⼲潟等が連続して広がり、希少な動植物を有するとともに、広大かつ秀でた自然景観が広がっている。国定公園指定により、⽣物多様性保全や観光振興が期待される⼀⽅、農業・漁業を中心とする地域産業との相克が懸念されている。また近年、風力発電や太陽光発電が無秩序に設立され、環境・景観の損失も問題となっている。
 研究グループは、陸域および沿岸域における生物多様性や各種生態系サービスの地図化を行った上で、地域関係者の認識や意向を踏まえた保全優先順位の評価手法を確立することを目的としている。実際の研究活動は、湿原や藻場の生物、環境、地形、景観の現地調査から、地域関係者へのヒアリング、アンケート、ワークショップによる意見徴収など多岐にわたっている。度重なる意見交換により、地域関係者と信頼関係を築いた上で研究活動を進めることができるようになった一方、本来は行政機関がやるべき業務である地域住民への制度の説明を研究者が代行しているような誤解が生じることがあり、研究と実践の進め方について研究者自身がより考えを整理する必要があることも痛感した。
 環境課題の解決に向けて超学際的な取り組みの重要性が増すなか、推進費は非常に有効な助成金制度である。より多様な目的や視点を持った課題が採択されることで更なる充実化が望まれる。


日本生態学会