| 要旨トップ | 本企画の概要 | 日本生態学会第72回全国大会 (2025年3月、札幌) 講演要旨
ESJ72 Abstract


自由集会 W27-3  (Workshop)

環境研究総合推進費の若手枠による海産環形動物の網羅的DNAバーコーディング【O】
Comprehensive DNA barcoding of marine annelids funded by the category for young scientists in the Environment Research and Technology Development Fund【O】

*阿部博和(石巻専修大学), 菅孔太朗(岩手医科大学), 小林元樹(国立科学博物館), 自見直人(名古屋大学), 田中正敦(慶應義塾大学)
*Hirokazu ABE(Ishinomaki Senshu University), Kotaro KAN(Iwate Medical University), Genki KOBAYASHI(Natl. Mus. Nat. Sci., Tokyo), Naoto JIMI(Nagoya University), Masaatsu TANAKA(Keio University)

環形動物は,海洋生態系において軟体動物や節足動物などとともに底生生物の主要な分類群の一つを担っており,底生生物群集中で優占する場合も多い。一方で環形動物は,体がちぎれやすく重要な同定形質が失われやすいことや,多くのグループで有用な日本語の同定資料が存在しないことなどの理由から,分類が非常に難しいグループとしても知られる。国内では,これまで分類研究に従事してきた,また,現在従事している研究者の数が少ないために,同定が困難・不可能な種や,複数の隠蔽種が混同されている可能性のある種などが沿岸域においてさえ高い頻度で出現する。この問題は,日本各地で行われている干潟生物調査においても顕著であり,多くの地域で環形動物が埋在性動物の多くを占めているにもかかわらず,種レベルでの同定が困難なために生息種が正確に記録されず,多様性が過小評価されている恐れがある。また,日本に生息する海産環形動物の種数や分布,生息状況の現状の大部分は不明であり,ほとんどの種で絶滅のリスクを評価することも不可能な状況となっている。そのため,環境省のレッドリストにおいても海産環形動物の掲載種数は21種にとどまっており,海産の節足動物や軟体動物と比べ大幅に掲載種数が少ない現状である。
演者らは,上記のような海産環形動物の分類学の状況を改善し,生息状況や絶滅のリスクを定量的・定性的に評価するために不可欠となる生物多様性情報の集積の基盤を確立することを目的として,環境研究総合推進費 自然共生領域の革新型研究開発(若手枠)において,「海産環形動物絶滅危惧種の特定のための網羅的DNAバーコーディング:希少種の探索,新種記載と分類の整理,および分布情報の集積の促進」の研究課題を推進した。
本発表では,推進費研究の内容や成果の紹介はほどほどに,研究課題の立案に至った経緯や研究遂行時のエピソード,課題終了後の展開などを中心に,推進費研究により生じたプラスの側面について紹介する予定である。


日本生態学会