| | 要旨トップ | 受賞講演 一覧 | | 日本生態学会第73回全国大会 (2026年3月、京都) 講演要旨 ESJ73 Abstract |
第24回 日本生態学会賞/The 24th ESJ Prize
私は顕微鏡を覗くと見える湖水中の多様な微小生物の世界に魅かれて陸水生態学を志した。同時に、赤潮やアオコなどの発生で急速に変貌する湖沼環境の悪化を肌で感じ、その保全や湖沼管理に結びつく研究を目指すようになった。
国立公害研究所(NIES現国立環境研究所)では、1976年から湖沼の富栄養化に関する特別研究プロジェクトが始まっており、入所した1979年から霞ヶ浦の生態系を研究するチームに加わり植物プランクトンを担当した。霞ヶ浦定期調査では、植物プランクトン種組成と13Cを用いた一次生産量の測定をし、一方で優占するアオコ(Microcystis)に着目し、その分布、光合成、栄養塩吸収、沈降・分解、越冬条件等の生理生態特性を調べた。同時に、隔離水界を用いた富栄養化防止研究や中国での海外学術研究への参加、また工学など他分野の湖沼研究に直接触れる機会が多かったことが、その後の研究の方向性に大きく影響した。
NIESの湖沼研究は80年代半ばには縮小され、改組や湖沼研究者の大学への転出が相次ぎ、湖沼研究を継続するためプロジェクト研究の立案に一定の時間を割いた。様々な形で、多くの共同研究者とともに、保全上課題のある湖沼(十和田湖や釧路湿原東部湖沼)で野外調査を実施し、悪化の要因を明らかにし、保全策を提案してきた。また、湖沼生態系の動態とその変貌を理解するため、隔離水界を用いた生物間相互作用の実証的研究として、ハクレン、コイ、ザリガニ等の外来種の導入が水質や生物群集、生態系に与える作用機序の解明に取り組んだ。
2000年以降は自治体職員やため池管理農家の協力も得て、多くの共同研究者と兵庫県のため池群を対象として、生物多様性の評価手法、生物多様性損失の駆動因解明、保護区の選定、人の利用や管理形態(池干し、水の供給源、人のかかわり方)など、社会的な視点も加えた研究を通して、ため池の生物多様性保全の重要性を示すことができた。
霞ヶ浦定期調査はLTERやAP-BON、データペーパー制度などにも支援され継続することができ、退職後、後継研究者たちの尽力により国際的な共同研究、生物種のDNAバーコンディグ、長期データの非線形時系列因果関係解析が進展した。中でも、限定的な理解に留まっていた霞ヶ浦の環境、一次生産、プランクトン、魚の間の因果関係が、共同研究者の力を借り解明できたことを幸せに思う。