| | 要旨トップ | 受賞講演 一覧 | | 日本生態学会第73回全国大会 (2026年3月、京都) 講演要旨 ESJ73 Abstract |
第14回 日本生態学会奨励賞(鈴木賞)/The 14th Suzuki Award
群集集合—ある区域に成立する生物群集の構造とその形成プロセス—を理解することは、生態学における主要なテーマの1つである。気候変動や景観の人為的撹乱が生態系に深刻な影響を及ぼしている現代において、群集に将来生じる変化を予測するためには、単一の生態系内部のプロセスだけでなく、生態系の境界を超えて移動する資源や生物の影響を統合的に捉える視点が不可欠である。しかし、こうした境界をまたぐ資源や生物の移動が、群集構造にどのように寄与するのかについては、河川での知見に比べ、他の系では実証研究が依然として限られている。私はこの課題に対し、境界が明確であり境外からの資源や生物の移動過程を追跡できるモデル系として、山岳の高山帯および海洋島に着目して研究を行ってきた。高山帯での研究では、山麓で出現し、風や飛行によって高山帯に輸送される節足動物が、残雪期から初夏にかけて高山帯で繁殖する鳥類の主要な餌資源になっていることを定量的に示した。さらに、残雪期に山麓から高山帯の残雪上に節足動物が輸送され、初夏にはハイマツ上で、晩夏には高山植物のお花畑で節足動物が出現することも明らかになった。鳥類は、季節進行に伴って空間的に移動する節足動物の資源の波を追うように採食場所を変化させることで、残雪期から晩夏まで餌を連続的に利用できることが示唆される。これらの結果は、山麓から輸送される節足動物が特に春先の餌資源に関する制限を緩和し、高山帯の鳥類群集構造に影響を与える可能性を示している。一方、海洋島での研究では、本土で分布を拡大した鳥類が伊豆諸島の島々でも分布を拡大させていることや、多くの島で鳥類の種数、機能や系統的な多様性が低下したことを明らかにした。加えて、頂点捕食者である猛禽類も多くの島で減少していた。これらの結果は、複数の島に導入された捕食者の影響が島内の食物網の崩壊や直接捕食によって鳥類への負の影響として現れ、さらに鳥類の島間移動を介して群島全体に波及した可能性を示している。以上の研究成果は、境界をまたぐ資源や生物の移動が、高山帯と海洋島に成り立つ鳥類群集の群集集合を理解する鍵であることを強く示唆している。本講演では、境界をまたぐ資源や生物の移動がもたらす資源制約の緩和と撹乱の影響の波及という2つの側面に着目し、人間活動によって群集がどのように変化しうるかを、高山帯と海洋島の事例から論じたい。