| | 要旨トップ | 受賞講演 一覧 | | 日本生態学会第73回全国大会 (2026年3月、京都) 講演要旨 ESJ73 Abstract |
第14回 日本生態学会奨励賞(鈴木賞)/The 14th Suzuki Award
湖沼生態系とその主要構成生物である動物プランクトンは、古くから生態学の発展に貢献し、数々のコンセプトの提唱や検証を可能にしてきた。これは湖沼や動物プランクトンの数々のユニークな特徴に基づく。例えば、湖沼は半閉鎖系で群集の成立や移出入の観測が行いやすいこと、動物プランクトンは中間消費者で一次生産者と高次消費者の双方と密接に相互作用することに加え、培養・採集が行いやすく多くの個体に基づく調査ができること、更にはクローナル繁殖を行う種が多く存在するため、遺伝的な特徴と形質・生態的動態を結び付ける分析ができるといったものがある。発表者は、このような特徴を生かし、特に枝角類を中心とした淡水性動物プランクトンを知ることを通して、生態学の主要命題の理解や実証知見の蓄積に貢献することを目指して研究を続けている。その主要な取り組みの一つが、湖沼堆積物コアサンプルを用いて湖沼環境の長期変動を過去にさかのぼって分析する古陸水学的手法を用い、個体群の集団遺伝構造から群集、生態系まで、生態系の構成段階を横断してその形成過程と長期変動を解明する取り組みである。長野県下伊那郡に位置する小型湖沼の深見池とそこに生息する枝角類を対象とした分析により、湖沼の枝角類群集は底生性群集の成立から始まり富栄養化に伴い浮遊性群集に変化するというパターン、この過程に伴い枝角類群集を制御する主要要因が栄養塩などのボトムアップ要因から捕食者などのトップダウン要因に変化するというパターンの自然界における実証例を取得した。更に、深見池のミジンコDaphnia cf. pulex個体群を対象とした集団遺伝構造・形態形質の長期変動を分析することで、移入初期に優占した遺伝子型が長期的に優占すること、限られた遺伝的多様性で個体群が存続するに加え、それにも関わらず捕食者の変化に対して適応的な形態形質が見られることがわかった。更に、複数の湖沼で同様の分析を行うと、この集団遺伝構造の変動パターンが共通して観測された。今回の講演では、これらの自身の研究の紹介を遠し、動物プランクトンの面白さと生態学における有効性を伝えたい。更に、現存動物プランクトンの長期モニタリングデータと古陸水学的手法によるレトロスペクティブを結びつけ長期動態分析を拡大する試みや、動物プランクトンの特徴を活かした生態学内外の多様な分野との共同研究の可能性についても議論したい。