| 要旨トップ | 受賞講演 一覧 | 日本生態学会第73回全国大会 (2026年3月、京都) 講演要旨
ESJ73 Abstract


第14回 日本生態学会奨励賞(鈴木賞)/The 14th Suzuki Award

記載的研究と生態学的コンセプトの関係における「鶏が先か卵が先か」問題
Chicken or egg?: The relationship between natural history observation and ecological concepts

富田 幹次(高知大学)
Kanzi M. Tomita(Kochi University)

生態学は仮説検証と自然現象の観察を両輪として発展してきた学問である。研究する際にどちらを起点にすべきかは古くから議論されているが、正解はない。近年はフィールドデータの高精度化やデータ解析手法の充実によって、自然史研究も再び脚光を浴びている。自然史研究には、このような網羅的なアプローチの他に、ある生物の行動や相互作用のユニークな側面を明らかにする記載的なアプローチもある。では、記載的研究から得られた知見を生態学の中で新しい視点に繋げることができるのだろうか?

私は、北海道知床半島を調査地として、地面を掘り返してセミ幼虫を捕食(以下:セミ掘り)するヒグマの生態に興味をもち、学生時代よりフィールド研究を展開してきた。研究開始数年間は、珍しい自然現象に満足し、生態学的なコンセプトとしての位置付けを考えてこなかった。こうした状態で論文を書き始めたが、当然すぐに行き詰まったため、博士課程ごろからセミ掘りにどのような生態学的意義があるのかを考えることに多くに時間を費やすようになった。最終的に、セミ掘り行動を2つの異なる生態学的なコンセプトと結びつけることができ、内一つはオピニオン論文として発表できた。

これまでの研究を通して、記載的研究とコンセプトの関係は「鶏と卵」であり、コンセプト・理論を対象種に当てはめた記載的研究のみならず、記載からコンセプトが作れると考えている。この受賞講演では、セミ掘りとの出会いから、この珍現象を生態学的なコンセプトに発展させようと足掻いてきた過程を紹介する。


日本生態学会