| | 要旨トップ | 受賞講演 一覧 | | 日本生態学会第73回全国大会 (2026年3月、京都) 講演要旨 ESJ73 Abstract |
第19回 日本生態学会大島賞/The 19th Oshima Award
熱帯林は巨大で複雑な森林構造と豊かな生物多様性を有し、多様な生態系機能を通じて地球環境の安定性に大きく寄与している。本講演では、「巨大な熱帯林」に魅了された「小さな私」が、熱帯林の生物多様性と生態系の構造・機能に対して、観測を通じてどのように向き合ってきたかを振り返ると同時に、その過程で多くの仲間とともに研究を進めてきた経験や、そこから得られた知見を紹介する。
学生時代から取り組んできた熱帯林研究では、一斉開花現象や樹木の生態的特性を明らかにすることを目的とし、主に現地調査、遺伝解析に基づく基礎的研究を行ってきた。例えば、フタバガキ科樹種にみられる多様な種子・花粉散布様式は、それぞれの死亡要因を回避するための適応的戦略として機能していることを示した。その後、モデリングやリモートセンシングを組み合わせることで、個体・プロットスケールで得られた情報を、景観・地域スケールへと拡張していった。
当初は原生林を対象とした基礎研究に取り組んできたが、現地に通い続ける間に、私が魅了されてきた巨大な熱帯林が、オイルパームなどを中心とした別の土地利用へと急速に転換されていく現実を目の当たりにしてきた。そこから、社会・経済的状況が大きく変化する熱帯地域での、保全と社会経済活動のバランスについて関心が広がった。例えば、先住民地域社会が保有する共有林は、断片化しながらも、原生林状態に近く遺伝的多様性や種多様性が維持されており、これらの森林が高い保全価値を有することを示してきた。現在では、熱帯林森林管理区における持続可能な施業に関する研究にも取り組んでいる。
また、APBON(Asia-Pacific Biodiversity Observation Network)などの国際的枠組みを通じて、熱帯林研究を地域スケールからアジア・グローバルに共有・つなげる活動も行っている。生物多様性の損失といった共通の課題に対しては、国際的な観測、データ共有、比較研究を通じた連携が不可欠である。
巨大な熱帯林の前では、研究者一人ひとりの視点は小さい。しかし、熱帯林生態系のもつ不思議や面白さ、そして急速に変化する環境に向き合う中で、その小さな視点を共有し、議論して深めることが重要である。私の一連の研究は、研究者仲間、現地カウンターパートとの継続的な共同研究によって初めて成しえたことである。熱帯林研究は、基礎的・応用的生態学研究としてだけでなく、国際連携の場としても大きな可能性を有している。