| | 要旨トップ | 受賞講演 一覧 | | 日本生態学会第73回全国大会 (2026年3月、京都) 講演要旨 ESJ73 Abstract |
第3回 日本生態学会自然史研究振興賞/The 3rd Natural History Award
私の自然史研究は、ゴール(gall、虫えい、虫こぶ)を形成するタマバエとの出会いから始まった。分類学的研究や生態学的研究を通じて、これまでに6新属・43新種を記載し、寄主特異性や生活史戦略の解明に関する研究などに取り組んできた。タマバエ科に見られる巧みな適応進化や寄主植物との緊密な相互作用を対象として、ゴール形成機構や、ゴールとタマバエを取り巻く生物群集についても研究してきた。また、虫えい形成者の多様性に関する生物地理学的研究として、伊豆諸島・トカラ列島・対馬など島嶼域での調査に取り組み、その過程でスダジイタマバエの大発生や分布拡大といった現象を記録する機会も得た。
2011年の佐賀大学着任以降は、さまざまな昆虫の生態や生活史に関する研究に加え、佐賀・有明海地域が有する独自の生態系の重要性を強く認識し、地域に根ざした自然史研究にも取り組み始めた。ヤマネ、カササギ、ミヤマガラス、アリアケスジシマドジョウ、ヒゴキムラグモ、シチメンソウなど地域固有の多様な生物や個体群について調査を行ってきた。また、アライグマ、チュウゴクスジエビ、オオフサモなど外来種に関しても、分布、生態、生活史、生息数の変動など自然史情報を記録してきた。これらの取り組みは、地域の生物多様性の理解を深めるだけでなく、「身近な生きもの研究」の魅力を地域住民と共有する契機にもなり、市民向け観察会や講演会、新聞連載といったアウトリーチ活動にもつながっている。
昆虫類は陸上生態系においてもっとも適応放散が進んだ分類群の一つであるが、近年の研究により、なかでもハエ目タマバエ科の種多様性が飛び抜けて高いことが指摘されている。現在は、このタマバエ科の地球規模での多様性がどのような過程を経て形成されてきたのかに着目し、研究を進めている。
本講演では、体長数ミリのタマバエとの偶然の出会いから出発し、周囲の多くの方々と共に歩んできた、私なりの「グローカルな自然史研究」の模索の過程を振り返りたい。とくに佐賀大学着任後の約15年間に展開してきた、地域に根ざしつつ、地球規模での生物多様性とも関連する自然史研究について紹介したい。