| 要旨トップ | 目次 | 日本生態学会第73回全国大会 (2026年3月、京都) 講演要旨
ESJ73 Abstract


一般講演(口頭発表) G03-02  (Oral presentation)

なじみの自然を失うとき:生態学的悲嘆が促す保全行動【S】
When Familiar Nature Disappears: Ecological Grief as a Driver of Conservation Action【S】

*Mao WAKAYAMA(The University of Tokyo), Seika TAN(NPO birth), Narumi KIMURA(NPO birth), Saki KONNO(NPO birth), Kisaki SAISHU(NPO birth), Rumi SATO(NPO birth), Kei UCHIDA(Tokyo City University), Masashi SOGA(The University of Tokyo)

生物多様性の喪失が加速する現代において、人々の行動変容を促すには、知識や情報の提供だけでは限界があることが露呈している。近年、環境劣化に対して人々が抱く不安や怒りといった負の感情―いわゆるeco-distress―が、人々の行動選択や意思決定を左右する強力な駆動因として注目されている。しかし、この負の感情は主に気候変動の文脈で論じられ、生物多様性保全における役割は見過ごされてきた。地域性のある生物多様性の保全を推進するためには、個人の直接的な経験から生じる、生物多様性喪失への負の感情が重要な駆動因となりうる。

本研究では、慣れ親しんだ動植物を失った悲しみや喪失感(生態学的悲嘆:ecological-grief)が、生物多様性保全行動を促進するという仮説を検証した。2025年6月、都立公園で生物多様性保全活動を行うボランティア148名とボランティアに参加していない都民155名を対象に、対面およびオンラインアンケート調査を実施した。構造方程式モデリングを用いた分析の結果、生態学的悲嘆は保全行動を予測する重要な因子であり、その影響は自然との心理的つながりが行動に及ぼす影響を上回ることが示された。さらに、幼少期の自然体験といった自然との経験的つながりや、自然との一体感といった心理的つながりと、生態学的悲嘆との関連を分析したところ、これらのつながりが強い個人ほど、生態学的悲嘆をより経験していることが明らかになった。

これらの知見は、地域の生物多様性保全を推進する上で、人々が抱く負の感情に注目することの重要性を示している。さらに、人々がなじみの自然とのつながりを築き、その喪失への気づきを促すことが、行動変容の基盤となることが示唆された。


日本生態学会