| | 要旨トップ | 目次 | | 日本生態学会第73回全国大会 (2026年3月、京都) 講演要旨 ESJ73 Abstract |
一般講演(口頭発表) G03-03 (Oral presentation)
本州中部地方には,湧水湿地という特異な湿地生態系が存在する.湧水湿地は100万年を超える地史的な時間スケールで分布をし続けてきたと考えられており,絶滅危惧植物や地域固有種が集中する生物多様性のホットスポットである.本研究では,湧水湿地に生育する植物が,地域の人々とどのような関係性を築いてきたのかを明らかにし,今後,その関係性がどう変化していくのかについて考察することを目的とする.とりわけ,この地域に長く居住し,資源の利用,日常での観察,保全活動などを通じて湧水湿地と深いかかわりをもってきた人々の意識に着目することとした.長野県および岐阜県の湧水湿地の所有者,近隣の居住者,保全活動参加者などに質問紙調査および聞き取り調査を実施した.主な質問項目は,湧水湿地に生育する植物の認知度および印象や体験,湧水湿地がもたらす生態系サービス,保全に向けて重要と考える事項などとした.調査の結果,回答者の多くが湧水湿地に生育する希少植物を認識しており,様々な体験を有していることがわかった.こうした回答は全て50代以上の人々によるものであったが,湧水湿地が開発等で急激に消失する前,すなわちこれらの植物が絶滅危惧種となる前の人とのつながりを示すものと推測される.生態系サービスについては,生物多様性,景観,レクリエーションに関わる回答が多かった.湧水湿地の保全に向けて重要と考える事項については,土地所有者や地域の人々の意識,行政による保全活動,次世代への知識と価値の継承などの意見が得られた.全体的に,湿地や植物に関心を抱く人が少なくなっており,湧水湿地の減少とともに,人とのつながりが希薄化しているとの回答が多かった.一方で,植物の保全活動を通じ,新たなつながりが形成されている事例もみられた.今後はさらに調査を進め,地域や年齢による違いなどについても検証を行いたい.