| | 要旨トップ | 目次 | | 日本生態学会第73回全国大会 (2026年3月、京都) 講演要旨 ESJ73 Abstract |
一般講演(口頭発表) G03-11 (Oral presentation)
生物多様性の保全には、科学的モニタリングの拡充と市民の環境意識の醸成が不可欠である。特に市民が自ら地域の生物多様性をモニタリングすることは、地域の環境に関する意思決定に主体的に関わる上で重要である。本発表では、環境DNA分析技術を軸に、包摂的な市民科学の実践と生物多様性教育の効果検証を報告する。
第一に、障がいのある参加者を含む環境DNA調査の実践について述べる。知的障がい、視覚障がい、肢体不自由のある生徒・市民を対象に、静岡県・兵庫県の海岸でサンプリングを実施した。触覚による器具の事前確認、音声誘導、ビーチマットや柄杓の使用等の工夫により、参加者のサンプリングによっては30〜51の魚類分類群を検出し、環境DNA魚類モニタリングデータベース(ANEMONE)の研究者データと同等の精度を達成した。ネガティブコントロールでも汚染は認められず、包摂的プロトコルが科学的妥当性を損なわないことが示された。
第二に、高校3校の生徒375名を対象とした教育実践研究を報告する。環境DNA調査群、食文化学習群、両実践群の3群を比較した結果、全群で地域の生物多様性データの重要性の認識が向上した。食文化学習群は環境DNA調査群より地域の生物への学習意欲を有意に高め、両実践群は地域外の生物への関心を有意に拡大させた。これは環境DNA分析によるデータリテラシーの涵養と、食文化体験による自然への情動的つながりの強化という二つの相補的な教育経路の存在を示唆する。本発表では、環境DNA分析が障がいの有無にかかわらず広く市民が参加可能なモニタリング手法であること、さらに食文化体験との統合が科学的理解と地域への愛着を同時に育む教育モデルとなりうることについて議論したい。