| 要旨トップ | 目次 | 日本生態学会第73回全国大会 (2026年3月、京都) 講演要旨
ESJ73 Abstract


一般講演(口頭発表) G03-13  (Oral presentation)

Species Scapeが映し出す異なる環世界:生態学者と分類学者の生物多様性認識の断絶【S】
Dancing on Linnaeus' palm: Divergence of species scapes between ecologists and taxonomists【S】

*林亮太(日本工営(株)), 柴崎祥太(同志社大学)
*Ryota HAYASHI(Nippon Koei Co., Ltd.), Shota SHIBASAKI(Doshisha Univ.)

生物多様性政策や保全・管理の実装は、分類学という「見えないインフラ」に強く依存する。しかし現行の研究評価(被引用・IF中心)では分類学は過小評価され、その結果としてマイナーな生物がそもそも生物多様性として“認識されない”という不可視化の実態がある。本発表では、2024年に主要学術誌12誌(生態・進化・保全系9誌+分類学3誌)に掲載されたオープンアクセス論文360本を対象に、本文中で言及された学名を抽出し、Wheeler(1990)の18分類群に整理したうえで、言及頻度を生物の体サイズに換算した拡張版Species Scapeを再構築した。その結果、生態学側では哺乳類(26.75%)・鳥類(20.31%)が卓越し、分類学側では昆虫(27.55%)・その他節足動物(19.56%)が支配的で、分布差は極めて有意であった(χ²=1758.5, p<2.2e-16)。さらに記載年代の比較から、生態学では18–19世紀に記載された「歴史的に馴染み深い種」にばかり注目する一方、分類学では新種を含む20–21世紀に新しく記載された種を中心とすることが示された。これらは、分野ごとに異なる環世界(Umwelt)がSpecies Scapeとして可視化され、地球上の“真の多様性(invisible majority)”が生態学的言説や意思決定から漏れうることを示唆する。生物多様性保全には、分類学と生態学の接続を制度的に強化し、評価指標の再設計を通じて基盤研究を社会実装する必要がある。


日本生態学会