| | 要旨トップ | 目次 | | 日本生態学会第73回全国大会 (2026年3月、京都) 講演要旨 ESJ73 Abstract |
一般講演(口頭発表) G03-14 (Oral presentation)
アフリカの保護区において、薪の採取は生態系保全と地域住民の生活が交差する重要な課題である。保護区を「人と自然の社会生態システム(SES)」として捉え、その相互作用を理解することは、持続可能な資源利用と保全の両立において不可欠である。世界遺産でもあるマラウイ湖国立公園では、30年前に薪の需給バランスに関する調査が行われており、この関係性を長期的に捉える貴重なベンチマークとなっている。
本研究は、この30年間の変化を捉えるため、社会経済調査、地理空間モデリング、住民参加型研究を統合し、薪の「需要(採取圧)」と「供給(資源量)」の両面から現在の利用実態と持続可能性を評価した。住民参加型資源管理下で許可される枯死木に着目し、総採取量(需要)と年間生産量(供給)を比較した。
需要側では、総採取圧が過去30年間で人口増加とほぼ並行して増加(191%)した。一人当たり消費量は微減(約1.44 kg人-1 日-1が1.39kg人-1 日-1に)に留まり、総圧の増大を隠蔽する「スケール・トラップ」が示された。総採取圧は年間約17,000tと推定された。
供給側では、枯死木の年間生産量(持続可能な上限)を約12,317 tと推定した。これは需要(約17,000t)を大幅に下回り、30年前の「資源余剰」から「赤字」状態へと劇的に変化したことを示している。
過去10年分の衛星画像解析では広範な森林破壊は確認されず、住民の適応と管理の部分的成功が示唆された。しかし、需給の「赤字」は目に見えにくい森林劣化を駆動しており、村落近辺の「劣化した安定状態」や林冠下の質的劣化が示唆された。本発表は、住民参加型の手法と社会生態学的視座が、この複雑な実態を解明し、持続可能なガバナンスへの示唆を与えることを示す。