| 要旨トップ | 目次 | 日本生態学会第73回全国大会 (2026年3月、京都) 講演要旨
ESJ73 Abstract


一般講演(口頭発表) G03-15  (Oral presentation)

市民の報告に見る哺乳類の動態:10年間のロードキル記録1万件の社会・生態学的分析【S】
Citizen-Reported Mammal Dynamics: A Socio-Ecological Study Utilizing 10,000 Roadkill Records【S】

*神宮翔真(森林総合研究所)
*Shoma JINGU(FFPRI)

 ネイチャーポジティブの実現には市民社会を巻き込んだ生物多様性モニタリングが不可欠であるが、従来の市民科学は自然愛好家に依存しがちで、参加者層や対象地域に偏りが生じやすい。本研究では、茨城県つくば市において行政の道路管理業務として蓄積された、11年間(2005–2007, 2016–2025)にわたる14,250件のロードキル記録を対象に、既成の社会システムを意図せざる市民科学として捉え直し、そのデータの活用可能性を論じる。
 本研究が着目したのは、市民が日常生活の中で発見した死骸を通報し、行政委託業者が回収するプロセスである。この仕組みは、結果的に市全域(284 km²)を網羅する面的なモニタリング網を形成している。しかし、本来が生態学的な調査を目的としていないため、データの活用には社会システム特有のバイアスへの理解が不可欠であった。プロセスを精査した結果、①通報を受けて出動しても死骸が消失しており回収に至らないデータの欠損、②市民が死骸を移動させたことによる発生地点と回収地点の乖離、③専門家ではない回収業者による類似種間の誤同定、といった課題が特定された。
 本研究では、回収記録の調査と担当者への聞き取り、記録写真による再同定からこれらのバイアスを検証・考慮した。その結果、イエネコ(4,349件)、タヌキ(2,856件)、ハクビシン(1,444件)等の哺乳類12種のデータを得て、時空間的な記録の変動を明らかにした。また、特定外来生物アライグマ(592件)については、侵入初期から定着の過程を把握できるデータを得た。これらの結果は、特有のバイアスさえ制御・解釈できれば、既存の行政記録が都市の哺乳類動態を捉える高解像度なデータとして活用可能であることを示している。本研究は、道路の安全管理やペットの供養という社会的要請に基づいて生成された記録を、科学的資源へ転換するモデルを提示する。同様の業務は全国の自治体で実施されており、持続可能な都市の野生動物管理に新たな可能性を提示する。


日本生態学会