| 要旨トップ | 目次 | 日本生態学会第73回全国大会 (2026年3月、京都) 講演要旨
ESJ73 Abstract


一般講演(口頭発表) H01-02  (Oral presentation)

自由遊泳するアカウミガメの潜水初期における心拍数の一時的な低下
Temporary decrease in heart rate during the initial phase of dives in free-ranging loggerhead turtles

*青田幸大(東京大学), 齋藤綾華(国立極地研究所), 阪井紀乃(東京大学), 石井理人(東京大学), 石山遥香(東京大学), 佐藤克文(東京大学), 福岡拓也(東京大学), 坂本健太郎(東京大学)
*Kodai AOTA(UTokyo), Ayaka SAITO(NIPR), Kino SAKAI(UTokyo), Masato ISHII(UTokyo), Haruka ISHIYAMA(UTokyo), Katsufumi SATO(UTokyo), Takuya FUKUOKA(UTokyo), Kentaro Q SAKAMOTO(UTokyo)

 肺呼吸動物では潜水に伴い副交感神経を介した心拍数の低下(潜水徐脈)が生じる。特に、ウミガメを含む海生肺呼吸動物では陸生動物に比べて、潜水開始時の急峻な心拍数の低下が認められている。潜水開始直後の心拍動態は、潜水に応じた自律神経性の循環器系調節を反映している可能性がある。潜水初期の心拍動態の把握は、肺呼吸動物の水中適応を支える循環器系応答の理解に重要である。そこで本研究では、潜水初期の心拍動態に着目し、潜水行動との関連と副交感神経の関与を検討した。
 2023–2025年に三陸沿岸で混獲されたアカウミガメ8個体(45–71 kg)に心電図および行動記録計を装着し、海洋に放流して3日間のデータを得た。うち3個体(48–60 kg)には放流時に副交感神経遮断薬アトロピンを投与した。心電図記録から、心臓の拍動間隔(RRI: RR intervals)と、その逆数である瞬時心拍数を算出した。さらに、潜水開始直後のRRI最大値と、その後10拍以内の最小値との差(ΔRRI)を算出し、初期の心拍動態の指標とした。全潜水時間(n=475)の中央値である22分を基準とし、それ以上を長時間潜水、それ未満を短時間潜水と定義した。
 アトロピンを投与しないウミガメの瞬時心拍数は潜水開始に伴い低下したが、特に潜水開始直後には水面滞在時(23.4±4.4 bpm)に比べて、最大75±9%低下した(RRIは増加)。ただし、この低下は瞬間的なもので、その後、瞬時心拍数は小幅な上昇に転じてから緩やかに再低下した。ウミガメの潜水時間が10分長くなるごとに、ΔRRIは0.65秒増大し、長時間潜水では潜水開始直後の一時的な心拍低下の発生率が短時間潜水の約2.2倍であった。この一連の初期応答は、アトロピン未投与群では75±25%の潜水で確認されたが、アトロピン投与によって消失または減衰した。
 以上より、潜水開始時の一時的な心拍数低下は、潜水可能時間に影響を及ぼす循環器系応答を反映し、副交感神経が関与していると考えられた。


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