| | 要旨トップ | 目次 | | 日本生態学会第73回全国大会 (2026年3月、京都) 講演要旨 ESJ73 Abstract |
一般講演(口頭発表) H01-03 (Oral presentation)
空中における捕食者と被食者の攻防は、動物の運動能力と行動戦略が極限まで発揮される進化的軍拡競争である。ハヤブサ類の急降下攻撃は生物最速であり、被食者を追尾する機動力、自身より大きな被食者を蹴って狩る攻撃力を併せ持つ。急降下は、翼を畳んで空気抵抗を小さくして達成されるが、翼による制御がほとんど期待できない。それにもかかわらず、旋回や姿勢制御を実現している。さらに、終末局面での蹴りは足を前に突き出すため、飛行速度を犠牲にし得る。このような力学的制約がかかる空中戦で、機動力と攻撃力が発揮されるメカニズムは研究ギャップであった。鷹匠が飼育するハヤブサに、カメラ、慣性センサ、GPSを装着することで、自由飛行する被食者との攻防を高時間分解能で計測した。その結果、ハヤブサは攻撃の直前(約 0.02 秒前)にピッチおよびロール方向に高速回転(~2,800 度/秒)し、攻撃姿勢に切り替わることを発見した。ミリ秒スケールの高速回転は、攻撃姿勢に由来する飛行速度の損失を抑えるだろう。攻撃力の推定は、動的加速度の変動を代理指標とした。被食者は空中を逃げていたにもかかわらず、その攻撃力は体重比で221 N/kgに達し、これまで計測されてきた鳥類の最大値を更新した。また、急降下時に小翼羽を左右独立に展開する姿が観察された。小翼羽の機能は理解が進んでいない器官である。本研究ではハヤブサは小翼羽によって、翼を畳んだ状態でも姿勢や飛行経路を制御するという仮説を立案して検証した。急降下姿勢を再現した模型を回流水槽内に設置して、流れを再現しながら、流体力および回転モーメントを計測した。その結果、小翼羽の展開によって、流体力の大きさと作用線が変動して、ピッチとロールの回転モーメントが生まれた。これらの結果から、翼を畳んだ姿勢でも高い角速度で姿勢を制御しており、機動力と攻撃力を両立するメカニズムの一端が、小翼羽によって達成される可能性が示唆された。