| | 要旨トップ | 目次 | | 日本生態学会第73回全国大会 (2026年3月、京都) 講演要旨 ESJ73 Abstract |
一般講演(口頭発表) H01-09 (Oral presentation)
母子関係において母が実子を殺す“子殺し infanticide”は様々な分類群で知られるが、子が実母を殺す“母殺 matricide”はごく一部の節足動物に知られるのみである。母殺が起きる条件として、当事者の誰かが利益を得る必要がある。例えば、子が栄養を得るための母食 matriphagy(母子共に利益を得る)や社会性ハチ類においてワーカーが自身でオスを産んだ方が姉妹の世話より適応度が高くなる場合の裏切り繁殖reproductive betrayalに起因する女王殺し(子のみが利益を得る)などが挙げられる。母子ともに利益を得ない母殺は通常進化し得ないが、演者らは第三者の介入により生じることを発見した。
一時的社会寄生性の生態を有するテラニシケアリLasius orientalisおよびアメイロケアリL. umbratusは、新女王がそれぞれキイロケアリL. flavusとトビイロケアリL. japonicusのコロニーに侵入し、寄主女王を殺害しコロニーを乗っ取る。演者らが飼育下で侵入の状況を再現し寄生女王の行動を観察したところ、いずれの寄生女王も寄主女王に気づかれないよう接近し蟻酸と見られる腹部液体を正確に噴射し、それによりワーカーが実母である寄主女王を敵とみなして攻撃を開始し母殺に至ることがわかった(母殺教唆型寄主操作)。なお、同属種でありながらこの寄生アリ2種の社会寄生性の起源は独立であり、母殺教唆型寄主操作も収斂進化と見られる。