| 要旨トップ | 目次 | 日本生態学会第73回全国大会 (2026年3月、京都) 講演要旨
ESJ73 Abstract


一般講演(口頭発表) H01-14  (Oral presentation)

ハンドウイルカの音声交換にみられる発音重複の成立機構の解明
Testing mechanisms underlying vocal overlap during vocal exchange in common bottlenose dolphins

*寺田知功(東京大学), Alban LEMASSON(レンヌ大学), 三島由夏(東京海洋大学), 森阪匡通(三重大学), 弓削ほたる(アドベン), 香田啓貴(東京大学)
*Tomoyoshi TERADA(Uni of Tokyo), Alban LEMASSON(Uni Rennes), Yuka MISHIMA(TUMSAT), Tadamichi MORISAKA(Mie University), Hotaru YUGE(Adventure World), Hiroki KODA(Uni of Tokyo)

ヒトの会話を含む,多くの動物のコミュニケーションにおいて,音声交換は発話の迅速な交替かつ重複回避によって成立している.一方,鯨類における音声交換は発音重複が頻繁に生じる可能性があるものの,こうした重複の成立機構に着目した研究は乏しい.本研究では,アドベンチャーワールドで同居飼育されていたハンドウイルカ5頭を対象に,音声交換中に生じる発音重複機構を検討した.ハンドウイルカは個体に特有の周波数変調パターンを持つシグネチャーホイッスル(以下,鳴音)で音声交換を行うため,鳴音から発音個体の特定が可能である.そこでまずは,対象個体の各々の鳴音を特定した.続いて,発音重複が偶発的に生じているのかを検討した.1頭を視聴覚的に隔離し,他の4頭に隔離個体の鳴音を再生する実験を行った結果,再生音に対する鳴き返しが記録され,観測された発音重複率は偶然に期待される値よりも有意に高く,発音重複は偶発的に生じていないことが示された.最後に,発音重複機構を説明する二つの仮説(相手の次の鳴音の生起を予測して応答・相手の鳴音の検出後に迅速に応答)を検討した.予測による重複の場合,予測可能である等時的な間隔で発音し,その間隔を基に応答するという二つの条件の成立が必要である.自発的に発音された鳴音系列の時間間隔を解析した結果,鳴音は等時間隔で発せられており,その等時性はランダムモデルよりも有意に高かった.一方,等時系列と非等時系列の鳴音を再生する実験では,系列条件間で発音重複の頻度に有意な差は認められなかった.これらの結果は,等時的な発音が鳴音の生起の予測を促進しないことを示しており,発音重複は鳴音検出後の迅速な応答によって生じていると考えられる.ハンドウイルカは他の分類群と同様に応答遅延を最小化する形で音声交換を行う一方,他の分類群とは異なり,発音重複を音声交換の一部として組み込んでいることが示唆された.


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