| | 要旨トップ | 目次 | | 日本生態学会第73回全国大会 (2026年3月、京都) 講演要旨 ESJ73 Abstract |
一般講演(口頭発表) H03-05 (Oral presentation)
都市化は自然淘汰や遺伝子流動の空間勾配を生み出し、生物の進化を駆動する現代的な環境変化である。なかでも、シロツメクサ(Trifolium repens)の被食防御物質であるシアン化水素(HCN)産生の表現型多型はその代表的な例である。HCN産生は、独立した2遺伝子(シアン配糖体生成を司るAc,加水分解酵素を司るLi)に制御され、一般に被食圧の低い都市部では、HCN産生型の頻度低下が予測される。近年の世界規模のメタ個体群解析では、この予測を支持するパターンが見られる一方、クラインが消失したり、逆に都市部で頻度が高まったりするパターンも報告されている。
本研究では、都市-農村の環境勾配のもとで淘汰圧と移住率の双方が変化することが、メンデル遺伝形質のクライン形成に与える影響を検討した。ある野生型集団に変異型が侵入し固定するプロセスを解析するため、2倍体2遺伝子座のライトフィッシャーモデルに従う個体群を格子状に配置したメタ個体群を構築した。このメタ個体群では、相対適応度と移住率に一方向的に勾配があると仮定し、集団遺伝学的なシミュレーションを実施した。
その結果、多くの場合には適応度勾配に沿う表現型クラインが形成されるが、都市部の移住率が極端に低く、サンプリングが都市側に偏る場合、遺伝的浮動等の確率的プロセスにより非線形的、あるいは逆転したクラインが検出された。この逆転したクラインは最終的には消失し、変異型もしくは野生型の固定に終わった。さらに、HCN産生に関する世界規模のメタ個体群解析のデータを再解析したところ、サンプリング範囲(トランセクト)が短い場合にのみ、都市でHCN産生型の頻度が高くなることがあり、理論予測と整合した。
以上より、都市-農村クラインは必ずしも局所適応の平衡状態ではなく、過渡的な進化状態であることが示唆された。都市進化の解釈には、時空間スケールや生息地の分断化、確率的プロセスを統合的に考慮する必要があるだろう。