| 要旨トップ | 目次 | 日本生態学会第73回全国大会 (2026年3月、京都) 講演要旨
ESJ73 Abstract


一般講演(口頭発表) I01-15  (Oral presentation)

高水温による冷水性魚類ワカサギの代謝速度増加と霞ヶ浦における記録的不漁との関連
Elevated Summer Temperatures Accelerate the Metabolic Rate of Pond Smelt: Implications for Unprecedented Catch Declines in Lake Kasumigaura

*松崎慎一郎(国立環境研究所), 福島路生(国立環境研究所), 丹羽晋太郎(茨城水試内水面支場), 山崎幸夫(茨城水試内水面支場), 髙野萌慧(茨城農林水産水産振興, 茨城水試内水面支場), 小日向寿夫(茨城農林水産水産振興, 茨城水試内水面支場), 篠原隆一郎(国立環境研究所), 高津文人(国立環境研究所), Olaf P JENSEN(Univ. of Wisconsin-Madison)
*Shin-ichiro MATSUZAKI(NIES), Michio FUKUSHIMA(NIES), Shintaro NIWA(Ibaraki Fishery Res. Inst.), Yukio YAMAZAKI(Ibaraki Fishery Res. Inst.), Moe TAKANO(Ibaraki Prefectural Govt. DAFF, Ibaraki Fishery Res. Inst.), Hisao KOBINATA(Ibaraki Prefectural Govt. DAFF, Ibaraki Fishery Res. Inst.), Ryuichiro SHINOHARA(NIES), Ayato KOHZU(NIES), Olaf P JENSEN(Univ. of Wisconsin-Madison)

霞ヶ浦では最近、ワカサギ(Hypomesus nipponensis)の記録的な不漁が続いている。本種は冷水性魚類であることから、資源量減少の要因として30℃を超える夏の高水温が考えられる。水温の上昇は、魚類の代謝速度(呼吸による酸素消費速度)を著しく増加させるため、本来成長に投資されるべきエネルギーの多くが呼吸によって失われる。しかし、その生理的応答は、種や個体群によって異なることが知られている。そこで、霞ヶ浦ワカサギ個体群の高水温に対する応答を明らかにするため、夏の水温とワカサギの肥満度および資源量の長期データを解析し、同時に様々な水温のもとでワカサギの代謝速度を測定した。
2013~2025年に観測されたワカサギの平均肥満度(7/21の解禁日)と相対資源量(7月のCPUE)を応答変数に、水温(7月の日平均水温が半数致死水温29.1℃を超えた日数)と餌資源(7月の動物プランクトン密度)を説明変数とした時系列解析を行った。その結果、肥満度、相対資源量ともに、水温のみが有意な負の説明変数であった。
 2024年と2025年に、卵から飼育したワカサギを使って、代謝速度を測定した。アクリル製呼吸チャンバーと非接触型溶存酸素計を用いた代謝速度測定システムを構築し、18~29℃の水温範囲で、体重の異なるワカサギの代謝速度を75回測定した。その結果、水温と標準代謝速度(standard metabolic rate)の関係式が得られ、Q10値(温度係数)は2.5と推定された。また、2013~2015年(7月の平均水温27.7℃)と2023~2025年(同水温30.6℃)の期間に、夏季のワカサギの代謝速度が約30%増加したと推定された。
 以上の結果から、夏季の高水温による代謝速度の増加が肥満度と資源量の低下をもたらし、ワカサギの不漁につながったと推察された。高水温に加えて、底層には貧酸素水塊も出現することから、ワカサギが成育可能な水域が急速に縮小している可能性もあり、将来の気候変動を見据えた資源保全策の検討が喫緊の課題である。


日本生態学会