| | 要旨トップ | 目次 | | 日本生態学会第73回全国大会 (2026年3月、京都) 講演要旨 ESJ73 Abstract |
一般講演(口頭発表) I02-01 (Oral presentation)
防災目的でハザードマップなどの整備が進み、洪水や土砂災害ハザードデータが国土数値情報の一部として国土交通省から全国的に公開され、その活用が進んでいる。一方で、洪水や土砂災害の発生しやすい場所は攪乱環境として生態学的にも重要であり、とくに洪水ハザードが高い地域はかつての氾濫原や湿地帯と重なることが多い。これら氾濫原などの一時水域は、魚類や鳥類の繁殖・採餌や湿地性植物の群落形成の場所として価値が高い一方、治水整備、農地化や宅地化により 減少が著しい。
このように失われつつある氾濫原環境とそこを利用する生物の特性を把握する手がかりとして、本研究ではハザードマップを生態学的解析に応用する可能性を検討する。国立環境研究所琵琶湖分室で収集してきた琵琶湖周辺の魚卵出現データ、土地利用データ、浸水継続時間ランクを説明変数とし、絶滅危惧種とくにニゴロブナなどコイ科魚類の琵琶湖周辺における産卵環境を種分布モデルにて解析した。
その結果、多くの種で 浸水継続時間ランクの説明力が高く評価されたが、ニゴロブナでは水田面積の寄与が相対的に大きかった。洪水時に浸水継続時間が長い場所は、琵琶湖から距離が短く標高差が少ない地点が多く、琵琶湖から魚類がアクセスしやすい環境にあることが繁殖に適した場所である理由として考えられた。そしてニゴロブナではこうした地域における水田地帯での繁殖・成長が重要であることも示唆される。
本研究は、洪水ハザードマップが生物の分布や繁殖適地の推定に有用であることを示し、同様の公的ハザードデータが整備された地域やそこを利用する分類群への展開が期待される。これらの成果はEco-DRR(Ecosystem-based Disaster Risk Reduction)や自然共生サイト・OECM(Other effective area-based conservation measures)の適地検討に資するほか、影響を受けうる生物群やライフステージの把握にも応用可能であると考えられる。