| | 要旨トップ | 目次 | | 日本生態学会第73回全国大会 (2026年3月、京都) 講演要旨 ESJ73 Abstract |
一般講演(口頭発表) J01-02 (Oral presentation)
単為生殖系統は広範な動物群において見られるが、それらの進化的な安定性については長年の議論にもかかわらず決着がついていない。たとえ個体としてのオスが失われたとしても、それは直ちにゲノム上での性決定システムの喪失を意味しない。理論的には、オスの発生や機能に関わる遺伝子は、選択圧からの解放によって進化的な時間とともに退化・喪失するとされている。しかし既知の多くの例において、これらレアなオスは依然としてオスとして機能するポテンシャルを保持している。事実、多くの単為生殖系統において機能的な「レアなオス」の出現が報告されるており、それらが長期的にはレアな有性生殖を引き起こし、遺伝的多様性の維持に寄与する可能性も指摘されている。
本研究では、単為生殖種であるナナフシモドキ(Ramulus mikado)において、極めて稀に出現するオスの機能について可能な限り詳細に解析した。長年のサンプル収集と観察の結果、本種のレアなオスはナナフシ目に典型的な外部形態を示し、同種メスに対して積極的な交尾行動を行うことが明らかになった。しかし、交配実験の結果得られた次世代において、オス由来の遺伝子型は一切検出されなかった。組織学的な観察では、交尾に際してメスへの精包物質の受け渡しは確認されたものの、正常な精子は認められなかった。また、オス側の生殖腺観察から、個体差はあるものの精子形成プロセス自体が正常に進行していない可能性が示された。
以上の結果は、ナナフシモドキにおいて単為生殖が完全に固定されており、もはや有性生殖への復帰が不可能な状態にあることを強く示唆している。本研究は、単為生殖系統の進化の不可逆性や、その進化的な帰結に関する議論において、重要な知見を提供するものである。