| | 要旨トップ | 目次 | | 日本生態学会第73回全国大会 (2026年3月、京都) 講演要旨 ESJ73 Abstract |
一般講演(口頭発表) J01-05 (Oral presentation)
種は生物の分類における最も基本的な単位である。種の定義のうち、現在最も広く受け入れられている生物学的種概念では、種を自然界で相互交配により生存可能で繁殖力のある子孫を作ることができる集団のグループと定義する。ただ、交配可能性を逐一調査対象種間に適用しなくては種分類できないのは不便であり、形態的・生態的な根拠に加え、近年ではDNAによる系統解析、特にミトコンドリアDNA(mtDNA)による系統解析が主要な種分類方法となってきている。北海道に生息するエゾスジグロシロチョウは2000年代初頭、mtDNAによる系統解析結果を主な根拠として2種に分けられた。その境界は石狩平野であり、以東以北をエゾスジグロシロチョウ(エゾ)、以西以南をヤマトスジグロシロチョウ(ヤマト)として分類されたのである。しかし、両種は実験環境下で交配可能で繁殖力のある子孫を作ることができるという報告がなされてきたが、野外での交配の証拠は無かった。そこで、我々はエゾとヤマトの交配を再確認するために両種の生息地から個体をサンプリングし掛け合わせ実験を行った。また、北海道、東北、近畿の計17か所から個体をサンプリングし、Mig-seq法を用いたSTRUCTURE解析を行った。その結果、両種の掛け合わせ実験で得られたF1世代だけでなく、F1世代の掛け合わせの結果であるF2世代も成虫まで成長可能であった。STRUCTURE解析の結果からは、特に石狩平野よりも西南部にまでエゾの遺伝的要素が浸透していることが確認され、野外で交配・交流が生じていることが明らかとなった。これら結果に加え、エゾとヤマトの幼虫は発育期の温度に対する適応に母系間で違いがあることを示唆する結果も得られた。以上のことから、現在2種となっているエゾとヤマトは同種であると結論付けた。またmtDNAの境界が石狩平野にある理由は、mtDNAの違いに起因する温度適応の変異が関与している可能性が高いと考えられた。