| | 要旨トップ | 目次 | | 日本生態学会第73回全国大会 (2026年3月、京都) 講演要旨 ESJ73 Abstract |
一般講演(口頭発表) J01-06 (Oral presentation)
多くの被子植物は自家不和合性と呼ばれる仕組みによって自己花粉による受精を防ぐ。自家不和合性は近交弱勢を避ける利点を持つ一方、その機構を失い自殖を行うことは遺伝子の伝達効率の高さや交配相手が少ない環境でも繁殖を保証できる点で有利であり、自家和合性の進化が多くの系統で起きたことが知られている。また、自家和合性の進化は「自殖シンドローム」と呼ばれる花形質の進化を伴うことが報告されてきた。アブラナ科植物の自家不和合性は多数のSアリルが分離するS遺伝子座によって規定され、同一Sアリルに由来する雌側特異性遺伝子SRKと雄側特異性遺伝子SCRの自己認識によって自家受精が阻害される。ハクサンハタザオArabidopsis halleri subsp. gemmiferaは日本全国に分布するアブラナ科植物であり、これまで自家不和性を持つと考えられてきたが、一部の集団で自家和合性が確認された。そこで本研究では日本における本種の自家和合性の遺伝的基盤と進化過程の解明を目的とし、①自家和合性・自家不和合性集団におけるSアリルの同定と配列比較、②多型データを用いた自殖率の推定、③花弁のサイズおよび花粉数の測定を行なった。まず、Sアリルの同定と配列比較の結果、日本では複数の機能欠損Sアリルが見られるほか、Sアリルの多様性が集団ごとに異なることが明らかになり、自家和合性が複数回進化したことが示唆された。また、解析を行なった一部の自家和合性集団では自殖率が低く、これらの集団では顕著な自殖シンドロームが見られないことが示唆されたことから、自家和合性の進化は最近起きた可能性がある。今後は自家和合性に関連したS対立遺伝子の機能や、より多くの集団を対象とした自殖率の推定を行い、自家和合性進化の過程を詳細に理解する予定である。