| | 要旨トップ | 目次 | | 日本生態学会第73回全国大会 (2026年3月、京都) 講演要旨 ESJ73 Abstract |
一般講演(口頭発表) J03-06 (Oral presentation)
一回繁殖型の生活史をもつ植物にとって、繁殖に移行するサイズ(閾値)は適応度に影響する非常に重要な特性である。最適繁殖サイズは、生育環境によって集団間でも変異する。ミヤマリンドウは中部以北から北海道の高山帯に生育する日本固有の多年生草本である。一回繁殖型の生活史を持ち、発芽から数年にわたって貯蔵器官として機能する常緑葉を蓄積し、葉量がある閾値を超えると開花・結実し、枯死する。北海道の集団を対象とした先行研究では、雪解け傾度に沿った繁殖サイズ変異が報告されている。本研究では、ミヤマリンドウの繁殖サイズをはじめとするいくつかの繁殖特性に着目し、雪解け傾度に沿った形質変異を大雪山(北海道)、飯豊山(福島県)、立山(富山県)の3山域で比較した。
SSRによる遺伝解析の結果、遺伝構造は山域間で明瞭に異なっており、本種が中部地方から高緯度地域に分布を広げていった可能性が示唆された。繁殖形質変異は、山域間で異なる傾向を示した。繁殖サイズの指標となる総葉面積は、大雪山・飯豊山集団に比べて、立山集団で有意に小さかった。大雪山と飯豊山では集団間の変異が大きく、雪解けが早い場所で総葉面積が増大したのに対し、立山では集団間変異は小さかった。花生産数は総葉面積に強く依存しており、立山では全般的に花数が少なかった。一方で、立山集団では花あたりの胚珠数が大雪集団に比べて多い傾向があった。
飯豊山・大雪山集団は、立山集団に比べて雪解け傾度に沿った繁殖サイズ変異が顕著であり、積雪環境の違いに応じた繁殖活性の違いが生じていた。山容が緩やかで積雪量の多い飯豊連峰や大雪山系では、大規模な雪渓がゆっくりと解けていくため、雪解け傾度に沿った局所適応が生じやすいと考えられる。一方で急峻地形の立山では、雪解け時期の年変動が激しく、局所集団に作用する選択圧も変動するため、明瞭な繁殖形質の変異が生じない可能性が示唆された。