| 要旨トップ | 目次 | 日本生態学会第73回全国大会 (2026年3月、京都) 講演要旨
ESJ73 Abstract


一般講演(口頭発表) J03-07  (Oral presentation)

多年生草本ハクサンハタザオへのウイルス感染は花への資源投資を増加させる
Turnip mosaic virus infection increases resource allocation in flowers of perennial Arabidopsis

*大坪雅, 工藤洋, 本庄三恵(京都大学)
*Miyabi OTSUBO, Hiroshi KUDOH, Mie N HONJO(Kyoto Univ.)

自然生態系においてウイルス感染植物が普遍的に存在することが明らかになってきたが、ウイルス感染が植物の繁殖へ及ぼす効果の理解は十分でない。ウイルスの多くは種子伝播できないため、感染植物が種子繁殖へ投資した場合、ウイルスから逃れる事ができる一方、栄養成長や栄養繁殖へ投資した場合、感染個体のまま集団内に保持される。多年生植物は種子繁殖または栄養成長/栄養繁殖への投資を可塑的に変化させることが可能である。そのため、多年生植物へのウイルス感染は、植物の種子繁殖への投資を増加させるのではないかと仮説を立て検証を行った。本研究では、野生多年生草本ハクサンハタザオ(Arabidopsis halleri subsp. gemmifera)を対象に、カブモザイクウイルス(Turnip mosaic virus)感染が植物の繁殖形質(花数および空中ロゼット数)に及ぼす影響を、野外調査および室内実験により明らかにした。2023 年春の開花期にハクサンハタザオの自然集団で調査した結果、個体サイズで補正した繁殖形質において、空中ロゼット数には差が検出されなかった一方、花数は感染植物で有意に多いことが示された。室内実験においても、感染個体の花数が有意に増加した。花茎ごとにウイルスの影響を比較した結果、主茎上の花数に有意な差は見られず、ロゼット基部から伸長する基部一次分枝の数および基部一次分枝上の花数が感染個体で有意に増加することが明らかになった。これらの結果は、TuMV 感染が多年生植物ハクサンハタザオの草型を変化させ、花生産を増加させることを示している。感染個体における花数の増加は、ウイルス感染による適応度低下を回避するための宿主側の戦略である可能性がある。また、種子生産量の増加は、非感染個体の新規加入を促進し、結果として宿主個体群の維持に寄与することが考えられる。このような宿主植物の繁殖投資の変化は、自然生態系において多年生植物とウイルスが持続的に存在し続ける要因の1つと考えられる。


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