| | 要旨トップ | 目次 | | 日本生態学会第73回全国大会 (2026年3月、京都) 講演要旨 ESJ73 Abstract |
一般講演(口頭発表) K03-01 (Oral presentation)
形態的可塑性とは、環境変動に応答して生物が遺伝子型の変化を伴わずに形態を変化させる能力を指し、多様な分類群で広く知られている。形態的可塑性は進化生物学における重要な研究課題であり、可塑性が新奇形質の進化にいかに寄与するか、その遺伝的基盤は何か、などについて多くの研究が行われてきた。しかし、複数種を対象とした形態的可塑性の比較研究は限られており、可塑性の獲得や喪失に関わる系統進化過程は多くの分類群で未解明である。
本研究では、日本で多様化しているサンショウウオ属に着目した。本属の幼生は止水環境または流水環境に適応している。止水性種のうち3種では頭部形態における顕著な可塑性が知られ、高密度条件下で飼育された幼生は共食いに適した大型の口を発達させる。本研究では、属内の各系統を代表する14種を対象に比較実験を行い、この可塑性の進化過程を検討した。
日本各地でサンショウウオの卵嚢を採集し、孵化後10日目から単独飼育と高密度飼育(孵化を10日遅らせた同一卵嚢由来の13個体と同居)の2条件下で幼生を飼育した。飼育開始後4週間、頭胴長と口幅を毎週測定し、頭胴長に対する相対的な口幅を2条件間で比較した。
その結果、ほとんどの止水性種で、高密度条件下の幼生は単独飼育個体に比べ、相対的な口幅が有意に大きかったが、その可塑性発現の程度は種によって大きく異なった。一方、流水性種であるヒダサンショウウオおよびイシヅチサンショウウオでは、いずれの時点でも相対的な口幅に密度に応じた違いは認められなかった。これらの結果は、高密度条件下で大型の口を発達させる可塑性が多くの系統で維持されていることを示唆する。また、流水性種で可塑性が認められなかったことは、この可塑性が二次的に喪失した、あるいは止水性系統で並行的に複数回進化した可能性を示唆している。