| 要旨トップ | 目次 | 日本生態学会第73回全国大会 (2026年3月、京都) 講演要旨
ESJ73 Abstract


一般講演(口頭発表) K03-03  (Oral presentation)

スズキの河川回遊を促す淡水域の環境要因:成長に対する基礎生産力の効果
Freshwater environmental drivers of river migration in Japanese seabass: effects of primary productivity on growth

*高井万葉(東京大学), 松崎慎一郎(国立環境研究所), 山川薫(茨城大学), 加納光樹(茨城大学), 黒木真理(東京大学)
*Kazuha TAKAI(The Univ. of Tokyo), Shin-ichiro MATSUZAKI(NIES), Kaoru YAMAKAWA(Ibraki Univ.), Kouki KANOU(Ibraki Univ.), Mari KUROKI(The Univ. of Tokyo)

 魚類が海域と河川を往来する通し回遊の究極的な目的は多くの場合、生産性仮説における「基礎生産力がより高い生息地を求めて通し回遊をする」という見解に基づいて説明される。しかし、魚類が回遊先の基礎生産力から利益を享受するという本仮説の前提となるプロセスは実証されていない。そこで、一部の個体が河川回遊をするスズキ(Lateolabrax japonicus)を対象とし、基礎生産力が淡水環境における成長に及ぼす影響の解明に取り組んだ。
 2022年10月から2025年3月に霞ヶ浦、北浦、常陸利根川(淡水域)、鹿島灘(海水域)において242個体のスズキを収集した。各個体の耳石から年輪間隔とSr/Ca比を測定し、それぞれを成長と淡水域利用の指標とした。まず季節的な回遊パターンを把握するために、142個体のSr/Ca比に対して時系列クラスタリング分析を実施した。次に成長と淡水域利用の関係を確かめるため、年輪間隔とSr/Ca比を用いて線形混合モデルを作成した。最後に、0–2歳時の年輪間隔と霞ヶ浦の環境要因(一次生産量、水温、溶存酸素濃度)による線形モデルを構築し、基礎生産力が淡水域におけるスズキの成長に及ぼす影響を評価した。
 クラスタリング分析から、約71%の個体が季節に応じて淡水域に強く依存していることが示された。また、淡水域を利用していた個体は若齢時に高成長であった。環境要因を含んだモデル解析の結果、夏季の一次生産量は成長に正の影響を及ぼしていた。本結果は、淡水域の基礎生産力に支えられた餌環境がスズキに成長利益をもたらすことを示唆しており、生産性仮説の前提が支持されると考えられた。また、夏季の高水温と冬季の低水温は成長に負の影響を及ぼしていた。以上より、淡水域における基礎生産力はスズキに河川回遊を促す要因の一つであり、同時に水温変動も淡水域における成長利益に影響する要素であることが考えられた。


日本生態学会