| 要旨トップ | 目次 | 日本生態学会第73回全国大会 (2026年3月、京都) 講演要旨
ESJ73 Abstract


一般講演(口頭発表) K03-05  (Oral presentation)

共生細菌はホストの絶滅をもたらすのか:オス殺しを伴う個体群動態モデル
Does Wolbachia cause host extinction? — A population dynamics model incorporating male-killing

*堀田淳之介(東京都立大学), 巌佐庸(九州大学)
*Jun-nosuke HORITA(Tokyo Metropolitan University), Yoh IWASA(Kyushu University)

ボルバキア (Wolbachia) は、多くの節足動物を宿主とする細菌であり、感染によって
宿主の性決定や生殖システムを操作し、単為生殖、雄の雌化、雄殺し、細胞質不和
合などを引き起こす。これらの操作は、感染拡大に寄与していると考えられる。
本研究では、チョウ目の一部で見られる「雄殺し(male-killing)」に注目し、それが宿主
個体群の絶滅を引き起こす可能性を数理モデルによって検討した。とくに、チョウ目
のリュウキュウムラサキ (Hypolimnas bolina) とボルバキアの系を念頭に、雄殺しを
考慮した個体群動態モデルを構築した。
【局所集団での感染拡大の条件】ボルバキアは母親から子への垂直伝播によって感
染が維持される。感染した母親が産んだ雄が死亡すると、残された雌の兄弟が
より多くの資源を利用でき、生存率が上昇する。この効果が感染拡大に寄与するかど
うかを調べた。母親が食草上に卵塊を産みつけ、幼虫が資源をめぐって競争し、成虫
が飛翔して交尾・産卵を行う生活史モデルを仮定した。その結果、食草1個体あたり
の卵塊数が多いほど、雄殺しによる感染拡大効果は弱まることがわかった。この予測
はボルバキアの宿主となっている節足動物の種間の比較解析による検証の可能性
を示唆する。
【宿主集団の絶滅の条件】雄殺しにより性比が雌に大きく偏ると、交尾機会の減少に
よって宿主個体群の繁殖成功率が低下し、絶滅が起きやすくなる。分集団構造をも
つ宿主集団では、ボルバキアの侵入による局所集団の絶滅、宿主の再定着、ボルバ
キアの再侵入が繰り返される可能性がある。空間構造を考慮したモデルにより、宿主
とボルバキアの非定常的なダイナミックスによる共存や、幅広い集団全体での絶滅
が起きる条件を、ボルバキアと宿主における、局所集団間の移住率に注目して検討
する。


日本生態学会