| 要旨トップ | 目次 | 日本生態学会第73回全国大会 (2026年3月、京都) 講演要旨
ESJ73 Abstract


一般講演(口頭発表) K03-06  (Oral presentation)

福島の放射能汚染地域における昆虫群集への137Cs移行に及ぼす食性と生息環境の影響
137Cs transfer to insect communities in the radioactively contaminated area of Fukushima: Effects of feeding habits and habitat

*佐山葉(京都大学), 角間海七渡(福島大学), 和田敏裕(福島大学), 辰野宇大(北海道大学), 小林奈通子(東京大学), 大手信人(京都大学)
*Yo SAYAMA(Kyoto Univ.), Minato KAKUMA(Fukushima Univ.), Toshihiro WADA(Fukushima Univ.), Takahiro TATSUNO(Hokkaido Univ.), Natsuko I KOBAYASHI(Tokyo Univ.), Nobuhito OHTE(Kyoto Univ.)

福島第一原子力発電所の事故から15年が経過した現在においても、森林生態系は放射性セシウム(137Cs)の主要な貯留庫となっている。森林内では主にリター層や表層土壌に137Csが蓄積され、食物網を介して淡水魚やクモなどの上位捕食者へ移行することが報告されている。昆虫は土壌圏から上位捕食者への移行を繋ぐ重要な媒介者として機能すると考えられるが、昆虫群集への137Cs移行量を網羅的に調べた例は少ない。本研究は、陸域および陸水域を含む昆虫群集を対象に、生息環境(土壌・リター汚染度、生息域の位置)および生態的特性(食性)が個体の137Cs濃度に及ぼす影響を包括的に解明することを目的とした。
福島県内の汚染レベルの異なる4地点で調査を行った。陸生昆虫の採集には、地表徘徊性種を対象としたピットフォールトラップと、生息域の低い昆虫を対象とした衝突板トラップを併用した。同時に水生昆虫および環境試料(リター、生葉、土壌)を採取した。各試料の137Cs濃度を測定し、線形混合モデルを用いて昆虫の137Cs濃度規定要因を解析した。採集法の違いは濃度の決定要因を解析する際に昆虫の生活拠点の位置の違いを表す指標として考慮した。
解析の結果、土壌137Cs濃度と生活拠点の位置の違いは昆虫の137Cs濃度に有意な影響を与えず、採取地のリター137Cs濃度と食性機能群が主要な説明変数として抽出された。腐食性昆虫はモデルの切片が他群より有意に高いものの、リター137Cs濃度の上昇に対する応答は緩やかであった。これはリター以外の多様な餌資源への複雑な依存を示唆する。一方で、肉食者や雑食者はリター137Cs濃度の上昇に伴い体内濃度が上昇し、高汚染下では腐食者や植食者を上回る傾向が示された。これは肉食・雑食者が腐食連鎖を通じた137Csの生物学的移行を強く受けていることを意味する。本研究により、森林生態系における昆虫の137Cs濃度は、微地形的な生息場所によりも、リターの汚染レベルと食性に強く依存することが明らかになった。


日本生態学会