| | 要旨トップ | 目次 | | 日本生態学会第73回全国大会 (2026年3月、京都) 講演要旨 ESJ73 Abstract |
一般講演(口頭発表) K03-11 (Oral presentation)
積雪中には寒冷環境に適応した雪氷生物が生息している.その中でも光合成微生物である雪氷藻類は,融雪期に繁殖し,積雪表面を緑色や赤色に着色させる.近年,積雪内における雪氷生物の存在や活動は明らかになりつつあるが,これらの生物活動を介した物質循環,特に栄養塩循環については十分に理解されていない.本研究では,多くのプロセスが生物活動によって駆動される窒素に着目し,積雪中における生物活動を介した窒素循環の実態を明らかにすることを目的とした.
調査は山形県月山のブナ樹林帯において,融雪期の2025年4月24日から30日および5月8日から21日に実施した.各調査日の毎朝5時に,雪氷藻類が繁殖した緑雪と繁殖していない白雪を対象に,深さ0–15 cm,15–30 cm,30–45 cmの3層から積雪を採取した.採取試料について,硝酸,アンモニウム,溶存有機態窒素および溶存有機態炭素濃度の測定に加え,硝酸の窒素・酸素安定同位体比分析を行った.
調査地では5月12日から18日にかけてブナの展葉が進行し,それに伴って積雪表面に緑雪が出現した.積雪表層(0–15 cm)における硝酸濃度は白雪(2.3 ± 2.5 μM)が緑雪(0.9 ± 1.3 μM)より高く,アンモニウム濃度は緑雪(9.2 ± 5.9 μM)が白雪(7.5 ± 4.8 μM)より高かった.溶存有機態窒素および炭素濃度も緑雪(34.8 ± 42.5 μM、325 ± 272 μM)で白雪(3.1 ± 3.1 μM、98 ± 49 μM)より高かった.硝酸の窒素・酸素安定同位体比は緑雪と白雪で同様の傾向を示し,窒素安定同位体比は時間経過とともに増加した一方,酸素安定同位体比,85‰以上の高い値を示したが,5月中旬で50–75‰に低下した.これらの変動は深さ15–30 cmでも観察されたが,30–45 cmでは認められなかった.以上より,積雪中の生物活動は深さ30 cm以内で進行しており,生物活動由来の硝酸が積雪中の窒素循環に寄与していること,さらに融雪期の積雪表面では生物活動に伴う有機態窒素および炭素の生産が活発であることが示された。