| 要旨トップ | 目次 | 日本生態学会第73回全国大会 (2026年3月、京都) 講演要旨
ESJ73 Abstract


一般講演(口頭発表) L01-12  (Oral presentation)

豪雨の多発は貧酸素海域の底生動物にどう作用する?〜二枚貝の事例〜
How do frequent heavy rains affect macrobenthic animals in hypoxic coastal zones? — A case study of bivalves —

*折田亮(佐賀大・農), 猪股寛大(佐賀大院・農), 中川潤紀(佐賀大院・農)
*Ryo ORITA(Fac. Agri., Saga Univ.), Hiroto INOMATA(Grad. Sch. Agri., Saga Univ.), Hiroki NAKAGAWA(Grad. Sch. Agri., Saga Univ.)

 近年、梅雨から夏季に集中豪雨が多発することに伴い有明海のような閉鎖性の高い海域では、海水中の酸素濃度が低下する貧酸素化に加え、低塩分化する状況が顕在化してきている。多くの底生動物は移動能力が低いことから、これらの環境変化から逃避できないことが想定される。本研究では、底生動物の中でも嫌気代謝や浸透圧調節の機構を備えている二枚貝に着目し、海の貧酸素化と低塩分化が同時に生じる複合条件下では、嫌気代謝で得られるエネルギーに制限がある状況下で、多くのエネルギー消費を伴う浸透圧調節を機能させることになるので、それらが単独で生じる条件よりも二枚貝の生残時間が短くなると仮説を立て、3種の二枚貝類を4つの実験条件(貧酸素区、低塩分区、低塩分かつ貧酸素区、通常区)で培養する実験を実施した。実験は、各実験条件における生残状況を評価する生残実験および培養期間中の嫌気代謝や浸透圧調節を調べるための代謝応答実験をそれぞれ実施し、両者を比較することで、海の貧酸素化と低塩分化が同時に生じることが二枚貝類の生残にどう影響するかを評価した。
 生残実験における半数致死時間は、貧酸素区ではサルボウガイで9.1日、アサリで3.4日、ハイガイで8.2日だったのに対し、低塩分かつ貧酸素区ではそれぞれ10.6日、3.9日、9.9日と、3種ともに生残が低塩分かつ貧酸素区でより長く(Log-rank-test, 各種p <0.05)、仮説に反する結果が得られた。代謝応答実験より、低塩分条件で嫌気代謝の中間代謝物が増加する新たな機構が見出され、この中間代謝物が増加したことで、嫌気代謝が終産物に代謝されまでの時間が延びたことが、貧酸素区よりも低塩分化かつ貧酸素区で二枚貝の生残が延びた要因であることが考えられた。本研究より、豪雨の多発によって低塩分化と貧酸素化が同時に生じる状況は、貧酸素化が単独で生じる状況よりも、二枚貝の生残に有利に働くことが考えられた。


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