| | 要旨トップ | 目次 | | 日本生態学会第73回全国大会 (2026年3月、京都) 講演要旨 ESJ73 Abstract |
一般講演(口頭発表) L01-16 (Oral presentation)
近年、加齢に伴いDNAメチル化レベルが変化するDNA領域が、野生動物の年齢推定指標として活用され始めている。我々はこれまでに、ヒグマの血液由来DNAのメチル化レベルに基づく年齢推定法を確立した。この方法は、従来の歯を用いる手法と比較して動物への侵襲性が低く簡便であるという利点を有する一方で、個体を捕獲しなければならないという制約があった。そこで本研究では、非侵襲的に得ることのできる糞を用いて年齢推定法を確立することを目的とした。
サンプルは、年齢が明らかである飼育・野生環境下のヒグマ57個体の糞を使用した。糞より抽出したDNAをBisulfite処理した後、解析対象とした2つのDNA領域をPCR法で増幅し、パイロシークエンス法でメチル化レベルを解析した。その結果、 2領域とも年齢とメチル化レベルの間に正の相関が認められた。得られたメチル化レベルを用いて年齢推定モデルを作成したところ、SLC12A5遺伝子近傍の3メチル化部位とDLX遺伝子近傍の1メチル化部位のメチル化レベルを用いたモデルが最も高い精度となった(平均絶対誤差:2.08年)。加えて、本手法では、ホスト(ヒグマ由来)DNAコピー数の定量化を行い、ホストDNA量が十分でない場合、分析が失敗したり大きな推定誤差を生じたりする傾向があることを実証した。
本研究により、ヒグマの糞由来DNAのメチル化レベルを指標とする年齢推定法が初めて確立された。本手法は、歯や血液を用いた推定法よりも非侵襲性的に実施できるという点で有用である。また、糞中のホストDNAを定量化して評価したことは、糞由来DNAメチル化を用いる研究における重要な技術的進展である。この新規年齢推定法を野外調査に適用することで、ヒグマの生態学的研究や効果的な管理戦略の構築に貢献すると考えられる。さらに、本手法は今後他の動物種の研究においても応用できると期待される。