| 要旨トップ | 目次 | 日本生態学会第73回全国大会 (2026年3月、京都) 講演要旨
ESJ73 Abstract


一般講演(口頭発表) L01-16  (Oral presentation)

ヒグマの年齢を『糞』から読み解く〜DNAメチル化レベルに基づく新規⼿法の確⽴〜
Non-invasive age estimation of brown bears using fecal DNA methylation level

*中村汐里(北⼤‧獣医), 小原怜(北⼤‧獣医), 山﨑淳平(北⼤‧獣医, 北⼤‧OHRC), 萩野恭伍(のぼりべつクマ牧場), 吉見優(のぼりべつクマ牧場), 松本直也(麻布大・獣医), 山中正実(知床財団), 中西将尚(知床財団), 渡辺政(知床財団), 伊藤英之(京都市動物園, 京都⼤‧野⽣研), 村山美穂(京都⼤‧野⽣研), 坪田敏男(北⼤‧獣医), 下鶴倫人(北⼤‧獣医, 北⼤‧OHRC)
*Shiori NAKAMURA(VetMed, Hokkaido Univ.), Satoshi OHARA(VetMed, Hokkaido Univ.), Jumpei YAMAZAKI(VetMed, Hokkaido Univ., OHRC, Hokkaido Univ.), Kyogo HAGINO(Noboribetsu Bear Park), Yuu YOSHIMI(Noboribetsu Bear Park), Naoya MATSUMOTO(VetMed, Azabu Univ.), Masami YAMANAKA(Shiretoko Nature Foundation), Masanao NAKANISHI(Shiretoko Nature Foundation), Sei WATANABE(Shiretoko Nature Foundation), Hideyuki ITO(Kyoto City Zoo, WRC, Kyoto Univ.), Miho MURAYAMA(WRC, Kyoto Univ.), Toshio TSUBOTA(VetMed, Hokkaido Univ.), Michito SHIMOZURU(VetMed, Hokkaido Univ., OHRC, Hokkaido Univ.)

 近年、加齢に伴いDNAメチル化レベルが変化するDNA領域が、野生動物の年齢推定指標として活用され始めている。我々はこれまでに、ヒグマの血液由来DNAのメチル化レベルに基づく年齢推定法を確立した。この方法は、従来の歯を用いる手法と比較して動物への侵襲性が低く簡便であるという利点を有する一方で、個体を捕獲しなければならないという制約があった。そこで本研究では、非侵襲的に得ることのできる糞を用いて年齢推定法を確立することを目的とした。
 サンプルは、年齢が明らかである飼育・野生環境下のヒグマ57個体の糞を使用した。糞より抽出したDNAをBisulfite処理した後、解析対象とした2つのDNA領域をPCR法で増幅し、パイロシークエンス法でメチル化レベルを解析した。その結果、 2領域とも年齢とメチル化レベルの間に正の相関が認められた。得られたメチル化レベルを用いて年齢推定モデルを作成したところ、SLC12A5遺伝子近傍の3メチル化部位とDLX遺伝子近傍の1メチル化部位のメチル化レベルを用いたモデルが最も高い精度となった(平均絶対誤差:2.08年)。加えて、本手法では、ホスト(ヒグマ由来)DNAコピー数の定量化を行い、ホストDNA量が十分でない場合、分析が失敗したり大きな推定誤差を生じたりする傾向があることを実証した。
 本研究により、ヒグマの糞由来DNAのメチル化レベルを指標とする年齢推定法が初めて確立された。本手法は、歯や血液を用いた推定法よりも非侵襲性的に実施できるという点で有用である。また、糞中のホストDNAを定量化して評価したことは、糞由来DNAメチル化を用いる研究における重要な技術的進展である。この新規年齢推定法を野外調査に適用することで、ヒグマの生態学的研究や効果的な管理戦略の構築に貢献すると考えられる。さらに、本手法は今後他の動物種の研究においても応用できると期待される。


日本生態学会