| | 要旨トップ | 目次 | | 日本生態学会第73回全国大会 (2026年3月、京都) 講演要旨 ESJ73 Abstract |
一般講演(口頭発表) L02-07 (Oral presentation)
配偶行動は個体の適応度に直結する繁殖の重要な要素であり、中には自身の身体の一部を配偶相手に与える極端な行動ー性的共食いや婚姻贈呈ーが知られている。これらは主にオスが資源を提供することでメスの繁殖成功や自身の父性を高める。しかし、これらの行動の多くは配偶後に雌雄が共存しない非社会性の文脈で生じ、その利益は主に繁殖投資や配偶相手の操作として理解されてきた。
そんな中、タイワンクチキゴキブリでは雌雄が互いの翅を食べ合う特異な配偶行動、翅の食い合いが唯一知られている。本種は交尾後も長期にわたり一夫一妻を維持し、両親で子の養育を行う亜社会性昆虫である。翅の食い合いはその相互性だけでなく継続的な社会性の文脈で行われる点で既存の例とは異なる特徴を持つ。翅の食い合いはその後のペアの生存や子育てに影響する可能性があるが、その意義は明らかになっていない。
本研究では、翅食い区、翅切断区、翅コーティング区を設け、親および子の生存率や成長を比較した。その結果、子の生存率や成長には処理間で有意差は認められなかった一方で、親の生存率は翅食い区で他区より高い傾向が見られた。
死因の多くは乾燥であったことから、翅の食い合いによって養分摂取できているとすれば、それが乾燥耐性を高めた可能性が考えられる。また、翅の食い合い後は雌雄間の協調関係が形成されることが分かっており、これにより発達した相互グルーミングなどを通じて過酷な環境下での生存を高めた可能性もある。
本研究は養分提供や配偶相手の操作とは異なり、翅の食い合いが社会的関係の中で双方の生存率を高める協力的な機能を持つ配偶行動である可能性を示唆する。これは、配偶行動における相手の摂食が繁殖投資や性的対立の枠組みだけでなく、社会的基盤の下では協力として進化しうることを提示するものである。