| 要旨トップ | 目次 | 日本生態学会第73回全国大会 (2026年3月、京都) 講演要旨
ESJ73 Abstract


一般講演(口頭発表) N01-02  (Oral presentation)

中国地方の小規模湿原における植生と環境条件の関係—唐川湿原を例として—
Vegetation–Environment Relationships in Small Moors of the Chugoku Region, Western Japan: A Case Study of the Karakawa Moor

*久保田憲(鳥取大学・院・連農), 本多三奈海(西部造園株式会社), 日置佳之(鳥取大学), 永松大(鳥取大学)
*Ken KUBOTA(UGSAS, Tottori Univ.), Minami HONDA(Seibu Landscape Co., Ltd.), Yoshiyuki HIOKI(Tottori Univ.), Dai NAGAMATSU(Tottori Univ.)

 鳥取県岩美町に位置する唐川湿原は、国指定天然記念物「唐川のカキツバタ群落」を含む湿原であり、標高370 m、面積0.6 haを有する。中国地方の湿原は小規模な鉱質土壌湿原が主体で、泥炭の発達が限定的である一方、微地形に対応した急峻な環境勾配のもとで複数群落が近接して配置する特徴をもつ。本研究では、唐川湿原における植生構造と地下水位、EC、pH、相対積算日射量との関係を統計的に検証し、群落配置の規定機構を明らかにすることを目的とした。
 湿原内91地点で植生調査を実施し、ネザサ–ススキ群落(A)、カサスゲ群落(B)、カキツバタ–ミソハギ群落(C)、オオイヌノハナヒゲ群落(D)の4群落を識別した(PERMANOVA p<0.001)。NMDSにより植生構造を序列化し、envfitの結果、植生高、植被率、高茎種数、低茎種数、乾性種数、湿生種数が有意に関連した。Empirical Bayesian Krigingにより各環境要因の空間分布を推定し、その推定値を説明変数としてdbRDAを実施した。AICによるモデル比較では4変数を含むモデルが最も支持され、地下水位および相対積算日射量の寄与が大きかった。第1・第2軸で制約変動の87%を説明した。さらに、環境条件の面的勾配を評価するため、林縁からの距離と各環境要因との関係をSpearmanの順位相関係数および偏相関係数により検討した。その結果、地下水位および相対積算日射量は林縁距離と有意な正の相関を示し、偏相関解析においてもこの関係は維持された。一方、ECおよびpHは単相関では弱い関連を示したが、偏相関では有意ではなかった。
 以上より、唐川湿原では地下水位および光環境の空間勾配が植生分化を一次的に規定し、その勾配は森林近接条件によって部分的に制御されることが統計的に示された。また、湿原中央部ほど湿原植生に適した環境条件が形成される傾向が示唆された。本湿原は、中国地方低標高帯に成立する鉱質土壌湿原における環境モザイク構造を示す代表的事例と位置づけられる。


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