| | 要旨トップ | 目次 | | 日本生態学会第73回全国大会 (2026年3月、京都) 講演要旨 ESJ73 Abstract |
一般講演(口頭発表) Q02-06 (Oral presentation)
我が国の代表的な内湾の一つである伊勢湾では、2012年頃から劇的な魚種交替が起こり、主要漁獲対象であったマアナゴ、シャコ等が減少し、ハモやマダイ等が増加した。この魚種交替を駆動した要因として湾内の貧栄養化や温暖化等が指摘されるが、そのメカニズムや魚種交替に起因する生態系機能への影響は明らかでない。このような変動環境下の生態系において、中間的な栄養段階に属する種・機能群が、生態系のセンチネル(監視役)として、その構造と機能を栄養段階の上下両方向に強く制御するmiddle-out効果の重要性が指摘されている。湾内の中間的な栄養段階に属し、寿命が1年と短い小型のイカ類(ジンドウイカ類)は、その漁獲量が主要魚種の総漁獲量と同調的に変動していることから、同様の機能を担っている可能性がある。しかし、本分類群の生態系機能の把握に必要な生態情報は不足している。そこで本研究では、筋肉の炭素・窒素安定同位体比(δ13C・δ15N)分析を用いて、魚種交替前(2011年)と後(2024/25年)における食物網構造の変化を把握するとともに、ジンドウイカ類の生態系機能の解明にむけて、水晶体の層別分析手法による生態履歴復元を試行した。湾内でトロール網にて採集した魚類や甲殻類等12種を分析に供したところ、魚種交替前後で全種のδ13Cが1~2‰低下していた。本海域では、貧栄養化に伴う一次生産者の種組成の変化が確認されているため、δ13Cの低下は、貧栄養化による一次生産者の増殖速度の低下に起因する可能性が考えられた。また、2024年に採取したジンドウイカ6個体の水晶体の安定同位体比を層別に分析したところ、内側から外側にかけて雄ではδ13Cが上昇し、雌では最外層のδ15Nが上昇した。この変化は、個体が経験した餌環境や繁殖生態を反映した同位体比の変動である可能性があり、分析検体数の拡充や筋肉の同位体比との比較・検討により、ジンドウイカ類の生活史を通した生態系における機能の把握が期待できる。